アーセナルの2024-25シーズンは終了した。まだ2試合が残っているが、今季を振り返ればさほど重要な2試合ではない。チャンピオンズリーグ出場権もよっぽどの失態がない限りは安泰。欧州最高峰の舞台での躍進は大いに称えられるべきだが、今季もプレミアリーグ2位の座と無冠で終わることになりそうだ。
そしてこの無冠に終わったことで、ミケル・アルテタの周辺が再び騒がしくなってきた。主要タイトルは未だFAカップ優勝のみ、5年連続タイトルなしで退任を求める声が高まっているという。しかしこれはただの憶測に過ぎず、アーセナル幹部が考えていることでもない。来季も彼の理想とタイトル獲得を実現すべく、再び激しい戦いに挑戦していくことになるだろう。
だが、アルテタとアーセナルには答えを出さなければならない“宿題”が残っている。彼らは「優勝候補」で終わるのか、はたまた「優勝チーム」として歴史に名を残すのか?そして、そのギャップを埋めるためには何が必要なのか?
指揮官は改善すべき課題・ポジションを特定、公の場で公言している。しかし初期の補強活動は、彼が挙げたポイントからは外れたものであった。
パリ・サンジェルマンとのチャンピオンズリーグ準決勝セカンドレグに敗れた後、アルテタはチームの現状を冷静に分析している。「得点力あるストライカーが必要か?」との問いに対し、こう答えた。
「その点は理解している。例えば、ゴール期待値が5に近かったにも関わらず1ゴールに終わってしまえば、そうなるのは当然だ。我々は多くのデータとリソースを駆使して分析しているが、多くの人間が直感的に必要なものを理解しているも事実である。その意見に耳を傾けるのは重要だよ。私にとって、勝率を上げるために何をすべきかは明確だ。『これをやれば絶対に優勝できる』なんて言う人はいないけどね」
指揮官は、チームが直面する問題をはっきりと理解している。そして、それを解決する方法も模索していると明言していた。
さらにアルテタは、続くリヴァプール戦の前に今季のアーセナルが全大会でタイトルを争うチームがなかったことも認めている。
「我々のチームは選手層が薄い。その薄さゆえに、過去数シーズンと同じように負傷する可能性が高い選手たちがいることも理解していたんだ。だが、どうすることもできなかった。(選手層は)タイトル獲得のために重要な要素であり、リヴァプールはその点で本当にうまくやっていたね。彼らはその一貫性を維持し、選手層、システム、監督、スタジアムが再び信じられないほどの雰囲気を生み出している」
「プレミアリーグ優勝には多くのことが必要であり、だから難しい。今季は抱えていた問題によって一貫性を見つけられなかった」
この発言は、彼と上層部がチーム構築に失敗したことを認めたものだった。2019年12月からチームを率いる彼に、この責任がないというのは極めて難しいだろう。スカッドが欠けていると認識していたならば、過去2回の移籍市場でどうにか手を打つこともできたはずだ。もし仮に、イーサン・ヌワネリとマイルズ・ルイス=スケリーの躍動によって盲目になっていたとしたら、それこそ大問題である。若手選手の覚醒は両手を上げて歓迎すべきことだが、ビッグタイトルを狙うチームが若手選手に過度な負担をかけるのは悪手でしかない。
そうしたシーズンを経て、アーセナルは来季こそタイトル奪還を目指して補強活動を例年より早めにスタートさせた。
まず第一に、アーセナルはスペイン代表MFマルティン・スビメンディの獲得を決めに動いた模様。すでに選手側と個人条件面で合意し、レアル・ソシエダには契約解除金6000万ユーロを支払う準備があるという。昨夏にはリヴァプール、今夏にはレアル・マドリーと世界中のビッグクラブが狙っていた26歳を確保できたのは、良い補強だと言えるはずだ。退団するジョルジーニョの穴を埋める以上の活躍が期待できる。
続いて、エスパニョールGKジョアン・ガルシアと接触。チームにはスペイン代表の同僚であるGKダビド・ラヤが正守護神として君臨している状況だが、将来有望な24歳GKの獲得に3000万ユーロを投じる可能性があるようだ。また、ボーンマスの20歳スペイン代表DFディーン・ハイセンとの交渉も伝えられている。
アーセナルは確かな実力を持つ中盤より後ろの選手の獲得へ向け、9000万ユーロ近い資金を投じる構えのようだ。だが、果たしてこの選択は「正しい」と言えるのだろうか?
アルテタがストライカーについて質問されたのは、明確な理由がある。彼の就任以来、獲得したストライカー(適正には様々な意見もあるが)はガブリエウ・ジェズスのみ。そのポジションでファーストチョイスとなったカイ・ハヴァーツも、獲得当初は中盤での起用を考えていたはずである。現チームでも最前線に入るのは、本職中盤のミケル・メリーノだ。
アルテタがセンターフォワードの補強をためらうのは、彼がそのポジションに様々な役割を求めていることが原因かもしれない。アーセナルのCFはボックス内で勝負するだけでなく、ピッチの様々なエリアに顔を出し、チームメイトとポジションを入れ替えながら広範囲の貢献が求められる。
だがその結果として、今の得点力不足が露呈した。平均的に様々な能力が高い選手より、圧倒的な得点力を有するストライカーが何をもたらすのか――彼の師であるペップ・グアルディオラが2022年夏に誰を獲得したのかを思い出して欲しい。アーリング・ハーランドの加入後、マンチェスター・シティは2度のプレミアリーグ優勝とFAカップ制覇、チャンピオンズリーグ優勝を達成した。ブカヨ・サカやマルティン・ウーデゴールらが作り出したチャンスから、圧倒的な力を持つストライカーが相手DFを蹂躙して次々にネットを揺らす……こんなにもワクワクする攻撃陣は世界を探しても多くない。
だが、アルテタとチームの優先度はそこにないのだろうか?アレクサンデル・イサク(ニューカッスル)、ヴィクトル・ギェケレシュ(スポルティングCP)、ベンヤミン・シェシュコ(RBライプツィヒ)など、彼らがターゲットとするストライカーには複数クラブが接触している。移籍市場の正式スタートを待っている時間はないはずだ。実際に水面下では動いているだろうし、争奪戦が状況を難しくしているのもあるだろう。だが最優先で動くべきは、このポジションではないのだろうか?
近年のアルテタとアーセナルは、間違いなく称賛されるべきチームだ。直近3シーズンだけで言えばプレミアリーグで最も安定して結果を残してきたのは彼らだし、何よりも「見ていて楽しいアーセナルの復活」はサッカー界を明るくした。
しかし様々な識者が指摘しているように、もう「惜しい」で終われる時間は残っていない。仮に来季もタイトルを逃してしまえば、大きな期待はその分の失望に変わってしまうだろう。現チームで成長してきた主力選手たちも、タイトルを求めて大きな決断を下す可能性が年々高まっていく。特にウィリアン・サリバには、すでにレアル・マドリーが接触しているようだ。主力を引き止めるには、タイトルを取るしかない。
また、仮に今季と同じようにケガ人が続出したとしても、2年連続で同じ言い訳は通用しない。超過密日程が待っているのは変わらないし、すでにスカッド層の問題を認識しながら放置するのであれば、「野心がない」と見られても当然だ。
いずれにせよ、アーセナルにとってこの夏の補強活動は長期プランに大きな影響を及ぼすものとなる。早い段階から動き始めているのは評価できるが、その補強ポジションはややズレているようにも見える。これが“ビッグサマー”への布石であることを願いたい。彼らにはもう「失敗」の時間は残されていないのだ。