文=細江克弥
車いすテニスプレーヤー・小田凱人を追いかける全豪オープン2025が終わった。
以前から、ずっと気になっていたアスリートのひとりだった。
日本の車いすテニス界には国枝慎吾というスーパースターがいた。グランドスラム(4大大会)を制すること28度。パラリンピックで獲得した金メダルは4つ。その強さを維持することの計り知れない難しさや身を切り刻むような苦悩があったとしても、残した記録があまりにも偉大すぎて、外から見ればほとんど「無敵」の状態だった。
その独壇場に風穴を開ける鋭い存在感を示したのが、当時まだ16歳の小田凱人である。
2022年10月の楽天ジャパンオープン決勝。当時38歳の国枝は、2時間半の大激闘の末に16歳の小田を破った。
「いつかやられる日が来ると思っていた。それが今日かもしれないと」
絶対王者の脳裏に敗北を予感させた超新星は、翌年の国枝の引退後、予想をはるかに上回るスピードで世界ランキング1位に上りつめた。
全豪・全仏に加えてパリ・パラリンピックを制した2024シーズンの強さはまさに圧巻。今回の全豪オープンは、そんな絶頂期に迎える2025シーズンの初戦という位置づけにあった。
今回の密着取材では2度のロングインタビューが組まれており、その2度目は決勝戦の約2時間後に予定されていた。
もちろん「優勝」を想定してのことだった。1セットも落とさなかった準決勝までの戦いぶりを見る限り不安は一切なく、誰ひとりとして全豪連覇を疑わなかった。
しかし、小田は決勝でイギリスのアルフィー・ヒューエットに敗れた。実質的には唯一にして最高のライバルが相手とはいえ、自分のテニスをほとんど表現させてもらえない中での完敗だった。
こちらの心配とは裏腹に、インタビュールームに現れた小田の表情は明るかった。
こちらの質問には小さく頷きながらじっくりとその意味を受け止め、ひと呼吸、ふた呼吸置きながら自分らしい言葉を頭の中で探す。そのやり取りは、シングルス1回戦の2日前に行われた1回目のインタビューとなんら変わらなかった。
「うん……やっぱり、そうですね。ああいう感じで負けると悔しいですけど。(ヒューエットとは)何回も対戦していて、最後に負けたのが去年の3月くらいで。そこからパラリンピックもあって、いろんな試合の決勝戦で戦って……彼との対戦でストレートで負けたのは久々で、やっぱり悔しいですけど、次に向けて頑張りたいなと、今はそういう気持ちです」
決勝戦についての質問を続けた。“久々の負け”によって18歳の世界ランキング1位が何を感じているのかを知りたかった。
——“ショック”という感情は?
「うーん……。いや、やっぱり、あるっちゃありますね。1年のうちに負ける回数って、去年も2回か3回しかなかったし、ほとんどのタイトルを取って、優勝して、というのが自分の中でスタンダードになっていたので。決勝に残るのは当たり前。優勝するのも絶対的な感じで。アルフィーと“トップ2”という形で高め合ってきた中で、1年のはじめにこうして彼が勝って……うん、だから、ここから燃えながら戦えるというか、そうやって競争しながらやっていきたいと思ってるんですけど」
——「リターンがハマりまくった」と表現した準決勝とは真逆の展開で、今日はとにかく、リターンがハマらなかった。
「そうですね。特に準決勝なんて何やってもボールが入るという感覚だったんですけど……逆に、今日は何をやっても自分のボールが入らなかった。それって1年間に何度もあることじゃないので、久々にその……なんていうか……『テニス難しいな』と感じたんですよね」
そう言って、少し笑った。
「最後の最後でこっちのギアが上がってきたけど、アルフィーのリターンの精度がぜんぜん落ちなくて。あの時に思ったんですよ。『自分(小田)と戦っている人って、いつもこういう感覚なんだろうな』って」
それからほんの少しだけ控えめなトーンで、こう続けた。
「ちょっとアルフィーの気持ちがわかった感じに……なったっすかね」
さて、この言葉、文字面だけを見て「まだ18歳のくせに生意気な」と思う人も、もしかしたらいるのかもしれない。
ヒューエットは27歳。シングルスで10度のグランドスラム制覇を誇る言わずとしれた名プレーヤーに対して、ここ1年、自分に勝てなかった彼の「気持ちがわかった」とはいったい何様のつもりかと。
そんなミスリードを引き起こす(あるいは引き起こしかねない)“文字面で知る彼”と“面と向かって知る彼”のギャップこそが、小田凱人というアスリートの魅力だ。
敗戦直後の約1時間のインタビューの中で、それでも小田はどんな質問に対しても真剣に言葉を選んだ。彼は嘘をつかない。テキトーな受け答えでごまかさない。自分だけの肌感覚を生々しい言葉に変換して伝える力を持っていて、それを駆使していつも必ず自分らしい言葉を選んだ。
そう言えば、1回目のインタビューで言っていた。
「結局は、気持ちなんですかね。ボールにも感情は乗るし、スイングを見ればわかる。それってやっぱ、自分に嘘をつかずに毎日を過ごしていないと無理なんですよね。だから、口だけで言ってるだけじゃダメ。毎日の生活がその1球に表れると僕は思うんで」
決勝戦前日のトレーニング。「10本連続で決めたら終わり」のトレーニングで、8本目のボレーがライン付近に弾んだ。「8!」とカウントするトレーニングパートナーの声を聞いて、小田は「いや、入ってない!」と叫んだ。その様子を見て、「自分に嘘をつかない毎日」の意味を知った気がした。
小田への質問を続ける。
——試合直後の囲み取材で「伸びかけた鼻を折られた感じ」と言っていた。ということは“伸びていた”という自覚があった?
「そうですね。自覚というか、自分でそう仕向けていたところがあって。でも、もしも勝っていたら『それのままでいい』と思うんですよ。鼻が伸びてる感じのほうが自分を見せる手段として正しいと思っているから。でも、負けたらそういうわけにもいかないですよね。負けたのに『そのままでいい』なんて絶対に思わない。次に勝つまで、また気合を入れ直して、そうやって勝ちが続けばまた自分を乗せて、鼻が伸びた感じでプレーしていけるのかなって。負けた時は、毎回そう思うんです」
小田凱人は、18歳にして自分の見せ方をよく知っている。自分の役割をよく考えている。自分らしさを追求している。勝因も敗因も、必ず自分の中にあることを理解している。
だから、強い。18歳にしてすべての矢印を自分に向けているから、この人の言葉は面白いのである。
スポーツライター細江克弥がピックアップ
『Google Pixel 9 Pro』のここがすごい!
(4)毎日の「???」を次々に解決する「かこって検索」が便利!
小田凱人といえば『Google Pixel を使っています』のコマーシャルですっかりおなじみ。せっかく彼を取材をさせてもらうのだから、この機会に「僕の名前は細江克弥。 Google Pixel を使って……みたいです」と冗談半分でお願いしたところ、なんとあっさり「OK」とのこと。ありがとう Google さん。そのお礼に、初めて使ってみて気づいたことを紹介させてください。
今回は「その4」。「かこって検索」という機能について紹介します。
私は主にスポーツを扱う編集者&ライターとしてかれこれ20年以上も仕事をしてきましたが、最も得意とするサッカーでも、その他のスポーツでもまだまだ“わからないことだらけ”なのです。「仕事の大半は調べもの」って感覚、社会人の皆さんならわかりますよね? で、調べれば調べるほど、どんどん楽しくなって、もっと調べたくなって……。
そんな興味を満たしてくれるのが「かこって検索」。SNSをチェックしたり、記事を読んだり、そんな時に出てくる「これなに?」を指でなぞって「◯」でで囲むだけで、ドドドと検索結果が出てくる。視覚的かつ直感的だし、スピーディーにどんどん深堀りできるから調べるのが楽しくなる。これはめちゃくちゃ“使える機能”だとわかりました。
小田選手に聞いたところ「大好きなヒップホップアーティストが着ているものをチェックするのに便利」と言っていて、なるほどと感心しました。好きなアーティストの動画を観ていて、そのシャツカッコいいなあ〜と思ったらかこって検索。確かに、めちゃくちゃ使える気がします。
というわけで、全豪オープン取材中の今も「かこって検索」を使いまくり。車いすテニスについても、全豪オープンについても、メルボルンの街についても、楽しめば楽しむほど博識になれるなんて最高じゃないですか!