【欧州・海外サッカー 特集】今季もマンチェスター・ユナイテッド(プレミアリーグ)のキャプテンとして、チームを牽引するブルーノ・フェルナンデス。しかし、彼にはふさわしいリスペクトが向けられていないのではないだろうか?
昨年8月のプレミアリーグ第2節フラム戦、ブルーノ・フェルナンデス痛恨のPK失敗もあり、マンチェスター・ユナイテッドは15年ぶりにフラムとのアウェーゲームで勝利を逃した。すると試合後、キャプテンはPK失敗について、キック前に主審クリス・カヴァナーとぶつかったことが原因と示唆している。
「気が動転してしまったんだ。PKキッカーとして自分なりのルーティンや、やり方がある。主審が謝ってこなくて不快だった。あの場面ではそれが動揺につながってしまった。だからといってPK失敗の言い訳にはならないけどね」
すると、彼は現地で嘲笑の的に。クレイグ・バーリーは『ESPN』で「信じられないほど恥ずかしいプレーだ。ユナイテッドでの彼のキャリアの大半は素晴らしいものだったが、同時に全く目立たない側面もある。今回はそれを象徴するものだね」と非難している。
ブルーノがフラム戦で嘲笑されたのは、これが初めてではない。2024年2月、本拠地オールド・トラッフォードで痛恨の敗戦を喫した後、フラムは公式『TikTok』でケガを装ったとして彼をからかっていた。当然ブルーノは激怒し、当時の指揮官エリック・テン・ハーグも同じ反応を見せている。
そして2月1日、ユナイテッドは本拠地にフラムを迎える。マイケル・キャリック暫定指揮官の下で完璧なスタートを飾った彼らだが、もちろんブルーノも完璧な準備を整えているだろう。今の彼を笑うものはいない。最も得意とするポジションで、最高の状態を取り戻したのだから。
直近4試合ではすべてアシストを記録、過去9試合で11ゴールに直接関与。ケガから復帰してからのブルーノは、目覚ましい活躍を続けている。プレミアリーグでのアシスト数は「10」に到達し、2位以下に3アシスト差をつけて首位に立った。ゴール関与数「15」はリーグ3位、アーリング・ハーランドとイゴール・チアゴに次ぐ好スタッツである。
そして、チームメイトにもう少し決定力があれば、その記録はさらに伸びていたはずだ。64回のチャンス創出はリーグ最多であり、2位のブカヨ・サカを21回差をつけた。クリスマス期間に3試合を欠場したにもかかわらず、90分あたり平均3.4回のチャンスを創出している点は特筆に値する。
同じスタッツをユナイテッドの選手に限定すると、ブルーノがいかに絶対的かが見えてくる。1試合平均チャンス創出数は、アマド・ディアロが「1.8」、ブライアン・エンベウモは「1.6」だ。彼に次ぐ記録はパトリック・ドルグだが、アシスト数は「3」。ブルーノに遠く及ばない。ゴール数だけはエンベウモが上だが、関与数では6ゴールの差。このポルトガル代表MFは圧倒的な記録を残しているのだ。
だがしかし、ブルーノが驚異的な活躍を見せれば見せるほど、ユナイテッドは真剣に考えなければならない。昨年、ブルーノはアル・ヒラルから週給70万ポンドという巨額オファーを受け取った。移籍金も1億ポンドが提示されたという。そして彼自身は、『Canal 11』でこう語っている。
「クラブの姿勢は『君が去っても悪くない』だと感じたんだ。少し傷ついたよ。忠誠心に対する見方が昔とは違うんだ。前回の移籍市場で去ることもできたし、お金ももっと多く稼げたはずだ。僕は評価されてきた。そして何より大切にしてくれていたのはクラブだ。でも、最近は立場が危ういような気もするよ」
ユナイテッド関係者は残留を望んでいると主張するが、この騒動はブルーノと上層部の関係に大きな影響を与えたようだ。サウジアラビアをはじめとする複数クラブが、夏の移籍市場でブルーノの獲得に動くだろう。彼は2024年8月に新契約を締結し、契約は2027年まで。1年間の延長オプションも付帯している。そのパフォーマンスやクラブへの影響力を考えると、できる限り早くこのオプションを行使するべきだろう。
サウジアラビアに移籍すれば、現年俸の3倍以上を受け取れるとも伝えられている。サウジ・プロリーグ側は引き続き強い関心を示しており、新たなリーグの“顔”の1人として、ブルーノに狙いを定めているという。そしてブルーノ自身は、先のインタビューでこう語っていた。
「現状に不満はまったくないよ。給料も十分だ。でも、その差は明らかに大きいね。お金が僕の決断を左右することはないけど、サウジアラビアに行くことになればライフスタイルは変わるだろう。マンチェスターで寒さと雨の生活を6年過ごした後、子どもたちの生活は陽だまりのようになるかもね。僕は成長著しいリーグで、スター選手たちと一緒にプレーすることになる」
実際、31歳という年齢や契約年数を考えると、ユナイテッドにとっては来夏がブルーノを売却する最後のチャンスになる可能性が高い。仮に1億ポンドで売却する場合、クリスティアーノ・ロナウドを抜いてクラブ史上最高額の売却選手になる。一方プレミアリーグ以外の欧州クラブに対しては、5700万ポンドの売却条項が設定されているという。
そして共同オーナーのジム・ラトクリフ卿は、クラブの給与総額とその他コストを削減するという使命を掲げている。どのような決断を下しても、不思議はない。
ブルーノは『Canal 11』で、「スペインリーグを経験してみたいし、イタリアで主要タイトルを争ってもみたい。ポルトガルに戻ることも考えたよ」と明かしている。あり得るとすれば、レアル・マドリー、バルセロナ、アトレティコ・マドリーのスペイン3クラブ、ミラン、インテル、ユヴェントスのイタリア3クラブ、そして古巣スポルディングCPだろう。
しかし上記のクラブが本当に獲得するとすれば、それはフリー移籍以外に選択肢はない。つまり来夏は、サウジアラビアの巨額オファーを受け入れるか、ユナイテッドに残留するかの二択となる。
今のユナイテッドは、ブルーノが渇望する「ビッグタイトルを争うこと」を提供できない。6年間で手にしたのはFAカップとカラバオカップのみ。チャンピオンズリーグに出場できたのはわずか3回だけだ。その3回でも、ラウンド16を突破したことはない。クラブが過去51年で最悪のシーズン(プレミアリーグ15位、ヨーロッパリーグ決勝敗退)を経験した後も残留を決めたのは、まさに奇跡と言える。
ブルーノが残留を決断したのは、ルベン・アモリムが強く望んだからだと明かしている。だからこそ、同郷の指揮官が解任された後には、これが退団の決定的な要因になるともみられていた。
しかし、彼が加入した際にアシスタントコーチとして指導したキャリック暫定監督は、彼の活かし方を熟知している。前体制とは違って彼が最も輝けるポジション、トップ下に配置したことで、試合を決めるパスやシュートを最大限に活かすことができるようになった。エンベウモやマテウス・クーニャとの連携も洗練されてきた。彼にはピッチ上で笑顔も増えている。キャリックはこう語る。
「彼が加入した時のインパクトを私は目撃したんだ。彼の情熱、どれだけ成功を渇望しているかが伝わってきた。その安定性とパフォーマンスのレベルなど、称賛すべき点はたくさんある。我々は皆、勝利を求め、チームとして成長したいが、ブルーノは素晴らしい活躍を見せている。彼について語るのは良いことばかりだよ」
これからキャリックに求められるのは、ブルーノに来季のチャンピオンズリーグ出場権を約束すること、そして「ユナイテッドでキャリアの全盛期を過ごす価値がある」と納得させることである。
一部では、彼を放出してチェルシーからコール・パーマーを獲得するとの噂も浮上したが、あまりにも実現性がない。そして、ユナイテッドにおいてブルーノの代わりを務められる選手など、この世にほとんどいないだろう。クラブのすべてを熟知し、今なお全盛期として輝き続けている。さらにユナイテッドは、すでにカゼミーロの退団が決定。マヌエル・ウガルテの代役を探すとみられており、多忙かつ高額投資が必要な夏を控えている。このタイミングでブルーノを放出するなど、あってはならない決断だ。
クラブ最重要人物に、「もし僕が移籍したいと言っていたら、上層部は放出していただろうね」などと言わせてしまうのは、あまりにも悲しすぎる。近年のクラブを支え続けた男に対し、ユナイテッドはリスペクトを見せなければならない。