パシフィックリーグマーケティング(以下、PLM)は12月21日、台湾・台北市内で、楽天の宋家豪(ソン・チャーホウ)投手、日本ハムの孫易磊(スン・イーレイ)投手の2人をゲストに迎え、ファンミーティング「太平洋聯盟FESTA 2025 IN TAIWAN」を開催した。PLMは、昨オフにも両選手を迎え、ファンミーティングを行ったが、オンラインでの開催。今年はPLMとして初の試みとなるオフラインでの開催となったなか、2人のトークを生で聞ける非常に貴重な機会ということもあり、熱心なファンが多数集い、会場は熱気に包まれた。今年も、台湾でパ・リーグ6球団の主催試合を放送・配信しているDAZN台湾の石屹軒アナが進行をつとめた。
宋は10年目の今季、春季キャンプ中の2月21日に右膝半月板を痛め離脱、同25日に手術を受ける波乱のスタートとなった。試合復帰まで6か月と発表され、今季中の復帰は不透明だったなか、医療関係者やトレーナーのサポートを受け、懸命のリハビリを行い、8月29日に1軍昇格を果たした。10試合に登板、4年ぶりとなるセーブも挙げ、1勝1セーブ2ホールド、防御率3.72という内容であったが、ストレートの力強さを印象づけた。
シーズン終了後の11月上旬には、故郷・桃園市の楽天桃園球場で開催された「2025桃園アジアプロ野球交流戦」で、台湾プロ野球・楽天モンキーズ戦の6回に「凱旋登板」、最速151キロ、8球で三者凡退に抑え、台湾のファンに、NPB1軍プレーヤーの格の違いをみせつけた。今季を振り返り、「ドクターからは半年、もしかしたら1年かかると言われたなか、半年以内にマウンドに戻るぞ、まずはファーム、そして1軍で投げるんだという強い気持ちをもって、努力しました。シーズン残り1か月で復帰し、登板数こそ多くはなかったですが、自分でも頑張れたと思います」と胸を張った。
石アナから「直球の平均球速は147.3キロで、この3年間で最速だった」と振られると、自分自身でもスピードが出ている実感はあると話し、リハビリ期間、結果的に休息を取れたほか、下半身だけでなく、上半身のトレーニングも十分に行えたことも要因ではないか、と分析した。なお、今季最も印象に残ったことについて、1軍復帰後、ビジターゲーム初登板で三塁打、ホームゲーム初登板ではホームランと、いずれも先頭打者に初球を痛打されたことを挙げ、再び気を引き締めたと話した。
また、孫が先発し、古林睿煬(グーリン・ルェヤン)投手が8回、自身もその裏に登板した9月23日、エスコンフィールドでのファイターズ戦は、まるで「台湾デー」だったねと言及。孫が「テレビで子どもの頃から見ていた宋先輩のピッチングを球場で初めて生で見ましたが、すごかったです」と称賛すると、「子どもの頃から」という言葉に目を丸くして苦笑い、孫もすぐに気が付き、会場は笑いに包まれた。
なお、宋は来季、1軍の出場選手登録が138日に達すれば、「国内フリーエージェント(FA)権」の取得条件を満たし、2027年シーズンからは「日本人扱い」となる。台湾選手では過去、郭泰源(元西武)と許銘傑(元オリックス)の2人のみというマイルストーンだ。
石アナから「この10年間を振り返って、どんなことが大変だったか」と問われた宋は、「自分は楽観的な性格なので、何かで苦労したというよりも、その過程全てに価値があると思っています。むしろ、自分のことをサポートしてくれたり、応援してくれた方々への感謝の気持ちが強いです」と述べ、来る2026年シーズンは、シーズン通じて健康を維持したい、と目標を掲げた。
「台湾の至宝」、20歳の孫にとって、今季は文字通り飛躍の1年となった。2月末、台北ドームで行われたWBCの予選では台湾代表に選ばれ、スペインとの最終戦で、このオフ、ソフトバンク入りした徐若熙のあとを受け、3番手として好救援、本戦出場に大きく貢献すると、3月初旬に行われたファイターズと台湾プロ野球2チームとの交流戦「北海道日本ハムファイターズ2025台湾シリーズ」の初戦、統一ライオンズ戦では先発に起用され、このオフ、西武入りした林安可から149キロ直球で空振り三振を奪った。
そして、開幕後は2軍でアピール、5月22日に支配下登録されると、同日のソフトバンク戦の9回、3対3という緊迫した場面で1軍初登板、2回無失点で初ホールドをマークする上々のデビューを遂げた。5月27日には球団最年少でのプロ初セーブ、8月11日にはプロ初先発も経験。9試合登板、0勝2敗1セーブ4ホールド、防御率5.11という成績以上のインパクト、期待を感じさせてくれた。
開幕前の目標は支配下昇格だったという孫。5月下旬という早いタイミングでの昇格は予測していなかったものの、2軍で好投が続いたことで自信を深め、「もしかしたら」と考え始めた矢先、通訳さんから「すぐに荷物をまとめて北海道に行くように」と知らされたという。ちなみに背番号「96」は入団時からつけたいと思っていたといい、即決したという。
2017年、登録期限の7月31日に支配下昇格の通知を受け、感激のあまり、電話口で思わず涙を流したと語った宋「先輩」と反応は異なるものの、孫も5月22日、エスコンフィールドのブルペンからマウンドへ向かう際、ビジョンに映る自らの姿を見て、「子どもの頃、テレビ中継で見ていたあの風景だ。今、自分がそこに立っているんだ」と感じ、感動したという。
なお、8月11日、初先発となったソフトバンク戦で、最も印象に残ったバッターを問われると、近藤健介外野手と即答。「2打席目追い込んでから、誘い球に手を出してもらえず、フルカウントから地面スレスレのチェンジアップを片手で拾われて二塁打。あれは忘れられません」と答えると、宋も「近藤選手は手強い打者だ」と深くうなずいていた。
また、日本と台湾のSNSでも話題となった、この試合中にマウンドで見せた「舌出しシーン」についても自ら解説。みずほPayPayドームは、同じドーム球場でも、ガラス壁のあるエスコンフィールドほど明るくはないため、梅林優貴捕手のサインの指がよく見えず、指の位置を変えてほしいと伝えたかったものの、互いに緊張していたなか、なかなか伝わらず、思わず舌を出してしまった、と苦笑いした。
2人はイベントとは別に、今年も日本のファンへ向けたインタビューに応じてくれた。宋は、気になる現在のコンディションについて、「しっかり半年間リハビリを行ったので、下半身だけでなく、肩も肘も万全で、最善の状態でプレーできます」と宣言、来季はフル回転が期待できそうだ。また、昨年に続き東北愛を強調、「イーグルスのファンはとても情熱的です。シーズン中だけでなく、このオフもファンの方々から、街中で『来シーズンも頑張って』と声をかけられました。自分も家族も皆、仙台・東北が大好きなんです」と、地元ファンの温かいサポートに感謝した。
ちなみに、西武入りする林安可外野手は、宋にとっては高校(台南市南英商工)の4学年後輩にあたる。OBの結びつきも強い同校、宋はNPBの舞台での対決を楽しみにしているといい、そのうえで「対策についてはこれからじっくり考えたい」と意気込んだ。一方、孫に来年2月末、台北ドームで開催が予定されているソフトバンク及び日本ハムと、WBC台湾代表及び台湾プロ野球2球団との交流試合「日台野球国際交流試合」について質問したところ、「出場する機会があれば、素晴らしい打者と対決できるので楽しみです」と目を輝かせた。
この交流試合のプロモーションで来台した野村佑希内野手が、囲み取材で孫の日本語を称賛したことに触れると、「日常生活は問題ないです。週に2回授業を受けているほか、できるだけ自分からチームメイトに話しかけるようにして頑張っています。旅行にも出かけていますよ」と教えてくれた。支配下登録後、特に親しくなったのはロッカーが近い、ほぼ同年代の達孝太投手と福島蓮投手だといい、自身の考えをしっかりと持ち、目標に向け努力する彼らから刺激を受けているという。古林も含め、彼らの才能が100%開花した際のファイターズのローテーションは、想像するだけで楽しみだ。
おしまいに、1年ぶりにPLMのファンミーティングで「共演」した2人に、双方の印象を伺った。孫が、育成出身の大先輩である宋について「日本球界で10年間、コンディションを維持し、1軍でこれだけ多くの試合(348試合)に投げ続けていることは本当に凄いと思います。目標であり、学びの対象です」と語ると、宋も「イーレイは本当に真面目な選手で、努力を重ね、直球も変化球も磨いていました。なので、支配下登録されたことについて驚きはありません。マウンドでの姿も落ち着いてきて、1年間でぐっと大人になり、とても20歳には見えません。1軍での活躍がさらに楽しみです」とエールを送った。
2人にとっては2026年も非常に重要な1年だ。彼らの人となりを知って、より身近に感じられたファンの皆さんは、異国で奮闘している彼らをぜひ応援してもらいたい。また来季、パ・リーグでプレーする台湾人選手は過去最高の10人となる。「パ・リーグインサイト」では今後も、台湾出身プレーヤーの情報をお届けしていく予定だ。お楽しみに。(「パ・リーグ インサイト」駒田英)
(記事提供:パ・リーグ インサイト)