マンチェスター・ユナイテッドの無視できない問題、それは新守護神が必要だということだ。これは絶対に解決しなければいけない問題である。OBギャリー・ネヴィルも「その点については絶対的に揺るがない」と断言した。アーセナルとの開幕戦に0-1で敗れた後、『スカイスポーツ』で「ボックス内で支配力を発揮し、飛び出してボールを処理し、守備陣のミスをカバーできる絶対的な守護神がいない。大きな不安だ。GK問題を解決しなければ、失点とポイントを落とすことは止められないだろう」と指摘している。
開幕2試合でゴールを守ったのアルタイ・バユンドゥルだが、アーセナル戦に続きフラム戦(1-1)も不安定なパフォーマンスに終始。特に相手CKでは完全にターゲットにされている。ネヴィルの指摘を否定するものは多くないだろう。そして、クラブもその必要性をはっきりと感じているようだ。
マンチェスター・Uが現在注目しているのは、ロイヤル・アントワープ所属の23歳、センヌ・ラマースだ。すでに個人合意が伝えられており、メヘレン戦は招集外。『ガーディアン』によると、移籍市場閉幕前に1700万ポンドで加入することが決定的になっているという。
では、なぜマンチェスター・Uはラマースを選んだのか。今回はベルギーの将来を担うとされる23歳を紹介する。
2002年7月7日、ベルギーのゾッテヘムで生まれたラマース。5歳の時に地元のKRCバンブルッヘでフットボールを始めると、その3年後にはプロクラブであるデンデルに加入。早くからその成長は大きな注目を集め、2014年にはベルギー屈指の強豪クルブ・ブルッヘに引き抜かれている。
その4年後、16歳の時にチャンピオンズリーグのアトレティコ・マドリー戦でメンバー入り。しかし、クルブ・ブルッヘはこの未来ある若者に早くからプレッシャーを与えることは望まず、2019年にシモン・ミニョレを獲得。リヴァプールやベルギー代表など豊富な経験を持つ守護神の近くで成長を促すことを選択した。
しかし同年12月、ラマースは欧州中のヘッドラインを飾ることになる。UEFAユースリーグのレアル・マドリー戦、95分に得たCKの場面で驚異的なヘッドを叩き込み、チームを2-2のドロー、そして決勝トーナメント進出に導いたのだ。当時すでにU-17ベルギー代表のレギュラーとして定着していた彼にとって、夢のような瞬間だった。
ラマースは2020-21シーズン、クルブ・ブルッヘのU-23チームに昇格。初参戦のベルギー2部で13試合に出場、チームは苦しんだがラマース自体のパフォーマンスは評価された。すると2021年7月、ミニョレの負傷の伴い、ベルギー・スーパーカップ決勝ヘンク戦でトップチームデビュー。3-2の劇的勝利に貢献した。その8日後のジュピラーリーグ開幕戦でも、ゴールマウスを守っている。
しかし、ミニョレの復帰に伴い再びベンチに座る日々を過ごすことに。最終的に残りのシーズンで2試合にしか出場できなかった。タイトルは2つ手にしたものの、ミニョレの壁は厚く、翌シーズンも11試合の出場のみ。結局2022-23シーズン終了後、フリーで退団することになった。若くして注目を集めた守護神だが、クルブ・ブルッヘではほとんど輝けずにクラブを後にする。
それでも、2022-23シーズン王者のアントワープ移籍が彼のキャリアにおいて大きな転機となる。4年契約でチームに加入し、オランダ代表のレジェンド、マルク・ファン・ボメルの指導を受けて選手としての才能を開花させることになる。
ファン・ボメルは『Het Nieuwsblad』のインタビューで、ラマースは「巨大なポテンシャルを持つGK」と評価し、「将来的にベルギー代表の正守護神になる」と期待を込めた。だが2023-24シーズンは18試合の出場に留まり、アントワープがリーグ戦で6位に終わったことでファン・ボメルは解任される。それでも、跡を継いだヨナス・デ・ロックはラマースの才能に大きな信頼を寄せていた。
デ・ロックも9カ月でチームを去るが、ラマースは正GKとして10試合のクリーンシートを達成。また計4本のPKをストップしたことが高く評価された。3月にはベルギー代表初招集。ネーションズリーグ・プレーオフの2試合に出場することはなかったが、世界最高峰の守護神ティボー・クルトワとのトレーニングには計り知れない価値があった。
この代表招集もあって彼の才能は世界中で高く評価されることになり、就任したステフ・ヴィルス監督は「次のステップに進む準備はできているね」と認めた。さらに2025-26シーズン開幕戦後、指揮官は「どんなリーグでも成功するために、必要なすべてを備えている」と期待を込めた。
ヴィルスがラマースを指導してまだ2カ月だが、指揮官は「彼は現代的なGK。まだ若く成長の余地はあるが、守備陣に自信を与えてくれる。ハイボールが飛んできても、彼がいればプラスになる。それがセンターバックに落ち着きをもたらしてくれる」とその長所を分析している。
空中戦時にボックス内を掌握できるのは、GKにとって重要な能力の1つだ。また卓越したショットストッパーであり、昨季のジュピラーリーグで最多セーブ(127)を記録。『Statman Dave』によると、欧州主要20リーグのGKの中で「失点阻止率」は上位1%に入っている。
この記録は、ラマースの一対一への対応力の高さに起因する部分を大きい。抜群のポジショニングと鋭い反射神経、そして冷静さを併せ持つ。また、両足でのボール配球も上出来だ。ヴィルスが言うように、現代フットボールに必要な要素はすべて持っている。
23歳ながら万能型GKとして着実に成長を続けるラマース。しかし、その若さゆえの積極性からミスがあるのは玉に瑕だ。元クルブ・ブルッヘのスカウトであるバート・タムシンは、『transfermarkt』でこう語っている。
「真のトップクラスになるには、正確性を高める必要がある。彼は毎試合ミスを犯す勇気を持っているが、それは特定の状況での経験不足が原因だ。大抵はキックの精度不足といった軽いミスだが、パスミスや状況判断の誤りから失点に繋がったケースも数回あるのは確かだ」
まだトップチームでのフルシーズンを戦ったのは1年のみ。大舞台での経験も浅く、ビッグチームとの対戦経験も少ない。こうしたミスが出てしまうのも不思議ではない。マンチェスター・Uにとって1700万ポンドの投資はある程度リスクを伴うだろう。しかし前述した能力と彼の強烈な向上心は、こうした短所が時間とともに解決されることを示唆している。
190cmを超える体格や出身国ゆえに、ラマースは当然クルトワと比較されてきた。アンデルレヒトの元GKコーチ、フランク・ボークスは「まだ1~2年の成長期間が必要だ。次の移籍先はバルセロナやレアル・マドリーではないだろうが、いずれクルトワのレベルに到達する可能性は否定できないよ」と『ラ・デルニエール・ユール』に語っている。
ラマースは、直近10年間で世界最高レベルのGKとして君臨してきたクルトワと近い特徴を持っている。もちろん彼自身のプレーもそうだが、守備陣に威厳を放ってチームが苦しい時に自ら模範を示す姿勢は、レアル・マドリーのボックス内で見られるそれと同じである。
クルトワのレベルに達するには、まだ判断力の向上や大舞台での経験、不注意なミスを減らす必要はある。マンチェスター・Uでは、そうした機会は多いはずだ。良くも悪くも世界中の注目を集めるオールド・トラッフォードで出番を得ていけば、数年後にはクルトワを脅かす存在になっていても不思議ではない。
ラマースは今年はじめ、『ガゼット・ファン・アントウェルペン』でマンチェスター・Uの関心についてこう語っている。
「初めて聞いた時は『ワオ!』って思ったよ。世界的なビッグクラブが関心を持ってくれるなんて、特別なことだ。もちろん何度も聞かされていたし、練習でセーブするとチームメイトから『ユナイテッド!ユナイテッド!』なんて言われたね。すべてがポジティブな話だった。世界最高のリーグであり、僕のスタイルや体格はイングランドに合っていると思う。あそこではフィジカル的に戦わないといけないけど、それは僕にぴったりだ」
マンチェスター・Uにとって、彼のこの発言は心強いはずだ。特にアンドレ・オナナとバユンドゥルがフィジカル面でプレミアリーグのフィジカル的な負荷に対応できず、その結果として失点を重ね続けているからである。空中戦で戦えるGKは最も望まれるタイプであり、ラマースが大きくクラブを変えてくれるかもしれない。
報道によると、マンチェスター・Uはラマースをいきなり正守護神に任命するのではなく、所属するGKたちと競わせながら出場機会を与えていく方針であるという。しかし新天地の環境に適応さえすれば、ラマースは十分にプレミアリーグでも活躍できるはずだ。
今夏にはベンヤミン・シェシュコ、マテウス・クーニャ、ブライアン・エンベウモの獲得に2億ポンド以上を投じたマンチェスター・U。しかし、ラマースことが「決定的な契約」になるかもしれない。彼らはエドウィン・ファン・デル・サールが去って以降、欠けていた「支配者」を探し続けてきたが、この23歳はそのポテンシャルを十分に秘めている。