【欧州・海外サッカー 特集】マンチェスター・ユナイテッド(プレミアリーグ)、チェルシー、そしてアストン・ヴィラ……ジェイドン・サンチョのキャリアは低迷し続けている。
レンタル移籍から約4カ月、ジェイドン・サンチョは未だアストン・ヴィラでのプレミアリーグ初先発を待っている。だが、ウェストハム戦では90分間ベンチで見守り、直近のマンチェスター・ユナイテッド戦は契約の関係で出場できず。今季のリーグ戦全時間のわずか8%しかピッチに立っていない。
ユナイテッドやチェルシーからヴィラへ移籍することは、サンチョにとっては大きな決断だったはずだ。しかし、10連勝を達成するなど驚異的なシーズンを送るチームで完全に乗り遅れた。ハーヴェイ・エリオットと共に、ウナイ・エメリにとって信頼できる戦力と見られていないことは明らかである。
彼のプレミアリーグでのキャリアはこれまでもうまくいっていなかったが、もはや成功は難しいのかもしれない。
移籍期限最終日にサンチョがユナイテッドからヴィラへレンタルで加入した時、OBスタン・コリモアはこう語っている。
「マンチェスター・ユナイテッドが手放したくても手放せない選手の一人に過ぎないと思う。どのクラブも、完全移籍で獲得するために高額な移籍金や年俸を支払うことを躊躇しているからね。プレミアリーグに来てから、彼は本当に失望させ続けている」
「サンチョは頭を下げて、結果を出さなければならない。さもなければ、彼のキャリアは単なる茶番劇に成り下がってしまうだろう」
現時点で、コリモアの意見に異議を唱えるのは難しい。サンチョのヴィラでの時間は、不幸な出来事の連続だった。
10月末のマンチェスター・シティ戦、ホームでの1-0勝利はヴィラにとって記念すべき白星だった。しかし、この試合で新天地でのプレミアリーグデビューを飾ったサンチョにとっては真逆の試合である。29分にブエンディーアの負傷によって途中出場したが、わずか45分後にベンチへと下げられている。
エメリは彼のパフォーマンスを評価しつつ、「影響力は良かった。その電気のようなエネルギー、技術は素晴らしかった。だが、90分間プレーする体力はまだ備わっていない。45分間ですら彼にとっては容易ではない状況だ」と説明している。
この時点で加入から約2カ月。その間ケガもなかったことを考慮すれば、彼のフィットネスに対する厳しい評価だった。それ以降、リーグ戦で20分以上出場したことはない。非常に厳しい現実を物語っている。
サンチョはヨーロッパリーグでも結果を残せていない。6試合注4試合で先発したが、未だゴールもアシストもない。プレミアリーグよりも対戦相手のクオリティが劣るにも関わらず、だ。マッカビ・テルアビブ戦後には、OBスティリアン・ペトロフからも「失望した」と指摘されている。
さらにバーゼル戦は、パフォーマンスよりもそのボディランゲージが注目されることに。エメリに交代を命じられたサンチョは、監督に挨拶もせずにベンチを拳で叩いている。不満を爆発させた彼の行動は、ヴィラの元スカウトブライアン・キングにこう批判された。
「公の場でする行動ではない。まるでアストン・ヴィラに居たくないようにも見える。もしそうならば、『さようなら』だ。アストン・ヴィラのようなクラブを単なる稼ぎ場として使うべきではない。君は名門クラブに所属しているんだ。クラブが許容できることには限界がある」
サンチョにとって、ヴィラはキャリア再建を図る上で理想的な場所と思われていた。エメリも理想的な指揮官だった。元スポーツダイレクター、モンチも「ヨーロッパ、いや世界のフットボール界で、選手を再生させ、その能力を最大限に引き出すことに長けた監督がいるとすれば、それはウナイ・エメリだ」と断言している。
エメリは今年初め、ユナイテッドを追いやられたマーカス・ラッシュフォードを復活に導いた。また同じ時期に、パリ・サンジェルマンで苦しんでいたマルコ・アセンシオを再生させている。今季7ゴールを奪って今では主力の1人であるドニエル・マレンも、ドルトムントからの加入時は決して評価がたくなかった選手だ。これまで指揮を執ったセビージャ、ビジャレアル、そしてアーセナルでも、必ずしもトッププレイヤーではなかった選手を素晴らしい手腕で導いている。
そんな指揮官は、サンチョにも同じ未来を描いていたのだろう。加入時にはこう期待を込めていた。
「確かにマンチェスター・ユナイテッドでは問題を抱えていたが、ドルトムント在籍時は素晴らしいパフォーマンスを見せていた。彼はまだ若く、まだ飢えている。技術とクオリティを発揮する能力を持っている。ここで彼の最高の状態を引き出せればと思うね」
残念ながら、エメリがサンチョに描いた再生の道は実現していない。そして彼にすらできないのであれば、誰がサンチョをプレミアリーグで活躍させることができるのだろうか?
彼の振る舞いや生活態度の悪さが足を引っ張ってきたのは確かだ。だが、単純に彼のプレースタイルがプレミアリーグのインテンシティに適していない。2019年~2021年、ドルトムントで迎えた絶頂期でさえ、スピードで相手DFを置き去りにするようなプレーはなかった。彼の真価はトランジション時のドリブルにあり、相手DFライン付近よりも手前のピッチ中央で脅威を生み出し、ストライカーへスルーパスを供給し、自身もボックス内まで走り込んでいくスタイルである。プレミアリーグにはそうした時間もスペースもほとんど与えられない。
だからこそ、彼自身がもう一度国外での成功を考えるべきだろう。過去4年間の苦戦を考えると信じられない人もいるだろうが、サンチョはイングランド人選手にとって、海外で成功を収める先駆者である。ジュード・ベリンガムの成功も、彼の影響があったことは否めないはずだ。そしてイングランド代表OBジャーメイン・ジェナスも同じように考えている(『10bet』)。
「彼は再び海外でプレーすべきだと思う。イングランド国外のテンポとフィジカルの方が彼に合っているからだ。今では、海外で真の実力を発揮している選手も多い。必ずしも成功するとは限らないが、サンチョのような能力を持つ選手には適していると思うよ」
「サンチョに才能があるかって? 並外れた才能を持つ選手であることは明らかだ。だが、プレミアリーグに来てからはその才能を一貫して発揮できていない。マンチェスター・ユナイテッドでは複数の監督のもとで数多くの機会を得た。今度は別の監督のもとでアストン・ヴィラに移籍したが、やはりうまくいっていないんだ」
ドルトムントには、常に彼の席が用意されている。2024年にレンタルで復帰し、チャンピオンズリーグ決勝進出を果たしたクラブだ。もしブンデスリーガ復帰に魅力を感じないのであれば、セリエAという選択肢もある。スコット・マクトミネイ、ビリー・ギルモア、ロメル・ルカク、そしてラスマス・ホイユンドと、プレミアリーグで苦しんだ選手たちが真の才能をいかんなく発揮しているリーグだ。
実際、ヴィラ移籍前にイタリア複数のクラブが彼に興味を示していた。その時は巨額の年俸が障壁となっていたが、6月にはユナイテッドとの契約が満了する。高額な年俸を受け取る日々は終了するが、同時に自ら自由に選択できる立場になることも確かだ。また、ヴィラとのレンタル契約を短期間で終了し、1月にも新天地を求めるという選択も魅力的だろう。
それが1月であれ6月であれ、サンチョは決断をしなければならない。プレミアリーグでの現実を受け入れ、キャリアを再生させるためにも、再び海を渡る必要がありそうだ。