【欧州・海外サッカー 特集】マンチェスター・シティ(プレミアリーグ)のサポーターたちは、過去13年間に渡ってマンチェスター・ユナイテッドの衰退を大いに楽しんできた。しかし、彼らも同じ失敗をしてしまう可能性は否定できない。
マンチェスター・シティのサポーターたちは、サー・アレックス・ファーガソンの後任であるデイヴィッド・モイーズを皮肉たっぷりに「フットボール・ジーニアス」と呼んだ。ジョゼ・モウリーニョを「パーク・ザ・バス」と嘲笑した。オーレ・グンナー・スールシャール解任の際には「オーレの舵取りだ」と嬉しそうに歌い、エリック・テン・ハーグを「ピエロ」と呼び、ルベン・アモリムに対しては宿敵ファンのチャントを拝借して「彼らは二度と勝つことなく、レッズは落ちぶれる」と馬鹿にしていた。17日のダービーを前に、彼らはマイケル・キャリックについてのチャントもすでに作っているのだろう。
だが、シティも遅かれ早かれ、自らの未来を真剣に考えなければならない。偉大なジョゼップ・グアルディオラの任期はまもなく終了するのだから。
グアルディオラ監督は2027年6月までシティとの契約を結んでいるが、今シーズン終了をもって10年に及ぶ政権を終える可能性が高まっている。クラブは既に後任探しを開始しており、エンツォ・マレスカとは2度にわたって接触。これがチェルシー解任のキッカケになったとも報じられている。
グアルディオラは契約満了まで続投するか否かについては明言を避けているが、シティには自身の退団に「備えておくよう」に伝えている。もし彼がこの夏に退団した場合、後継者はファーガソンがモイーズに託したマンチェスター・ユナイテッドよりもはるかに明るい未来を持つチームを引き継ぐことになるだろう。ファーガソンが託したチームにはピークを過ぎた選手が多く、新監督の戦術に耐えられない選手も大勢いたのだった。
ファーガソンと尊敬されるデビッド・ギルCEOが同時に退任し、2つの柱を失ったクラブにモイーズが就任したユナイテッドとは対照的に、グアルディオラは強力なエコシステムを残して去る予定だ。シティは彼の長年の友人であるフェラン・ソリアーノがCEOを続投、スポーツダイレクターのウーゴ・ヴィアナもすでに賢明な選手補強で高い評価を得ている。
そして最も重要なのは、グレイザー家による長年の怠慢により2013年当時(そして現在も)多額の負債を抱えていたユナイテッドとは異なり、シティはアブダビのソフトパワープロジェクトの中心的存在で堅調な財務状況にあるということだ。
ユナイテッドはファーガソン以降、あらゆるタイプの監督を試してきたが、そのすべてが失敗に終わっている。ファーガソンと同じ生い立ちと価値観を持ち、10年以上エヴァートンを指揮してきたモイーズは「安心できる手腕」と期待されていたが、見事に失敗した。その後、チャンピオンズリーグ優勝経験を持つ異端児ルイ・ファン・ハールによるトータルフットボールを試みたが、予測可能なゲームプランしか提示できず、多くの選手を疎外してしまった。
就任のわずか1年前にチェルシーでプレミアリーグ優勝を果たしたモウリーニョも成功しなかった。レジェンドであるスールシャールはノスタルジアと熱狂の波をもたらしたが、チームを次の段階へと導くことはできず、その失脚は急激で痛ましいものとなった。母国で大きな成功を収めたテン・ハーグやアモリムといった新進気鋭の指揮官たちも失敗に終わっている。
すべての指揮官はユナイテッドファンに熱烈な歓迎を受けたが(モイーズを除く)、それぞれ異なる形で異なる理由で失敗している。だからこそ、シティは隣人の警告に耳を傾ける必要があるのだ。
ユナイテッドが失敗した主な要因の1つに、真のエリートであり全盛期の指揮官を任命できなかったことがある。クラブ体制が整っているからこそ、シティが最も注意すべき点はそこなのだ。そして複数いると噂される後任リストで最も適任なのは、ルイス・エンリケだと言える。
現パリ・サンジェルマン(PSG)指揮官は、グアルディオラ退任から2年後にバルセロナの指揮官に就任。ペップ・バルサほどではなかったかもしれないが、愛するクラブに夢のような成功をもたらしている。就任最初のシーズンで歴史的な三冠を達成、3年間でラ・リーガ2回、チャンピオンズリーグ1回、コパ・デル・レイ3連覇を成し遂げた。その後スペイン代表を挟み、2023年夏に就任したPSGではクラブが何年も待ち続けた悲願のビッグイヤーを掲げている。同シーズンは三冠を達成しており、グアルディオラに並んで2つのチームで三冠を達成した史上2人目の指揮官となっている。
グアルディオラと同じような経歴を持つ以外だけでなく、常勝指揮官としてキャリアを更新し続けているルイス・エンリケ。隣人と同じような過ちを犯さないために世界最高峰の監督を招聘しなければいけないのであれば、彼以上の適任はいないだろう
ルイス・エンリケは選手時代の経歴から尊敬を集めるだけでなく、リオネル・メッシやキリアン・エンバペらスター選手の扱いにも非常に長けている。エンバペに「クソ野郎みたいに守れ」と躊躇なく言い放ったことは特筆すべきだ。そして彼が去った後、PSGは史上最高のフットボールを披露している。さらに、「キャリアの5年を無駄にした」と自ら認めるウスマン・デンベレをバロンドーラーへと変貌させた手腕も絶賛されるべきだ。選手の再生ということに関しては、グアルディオラ以上かもしれない。だからこそ、違った形で今のシティをレベルアップさせられるだろう。
しかし当然、PSGが簡単にルイス・エンリケを手放すわけがない。ましてやカタールとUAEの対立関係も背後には存在する。現行契約は2027年まで。報道では契約交渉の行き詰まりから退任の可能性も浮上しているが、契約満了を待つ場合、グアルディオラも契約期間を満了することが必要になる。仮にグアルディオラが今季終了後にクラブを去るのであれば、ルイス・エンリケの引き抜きには両政府を巻き込む難解な交渉が必要になるかもしれない。
一方でシャビ・アロンソがレアル・マドリーを解任されたことは、シティに別の選択肢をもたらしている。選手時代からグアルディオラに絶賛されており、レヴァークーゼンで成し遂げた無敗優勝で指揮官としての評価も一気に高まった。
しかし彼についての疑問は、スター軍団を管理できるかということ。スーペル・コパ・デ・エスパーニャ決勝後のガード・オブ・オナーを選手たちが露骨に拒否したあの光景は、いかにレアル・マドリーが特殊な環境とはいえ、懸念を残している。
一方で、選手としてシティで11年間過ごしたヴァンサン・コンパニはロマンチックな選択肢だ。今季ブンデスリーガで見せる圧倒的な手腕と実績も併せると、非常に魅力的な候補である。しかし、監督としてのキャリアがまだ浅い彼が、クラブ史上最も成功した指揮官の後釜として収まるのは、やはり時期尚早に思えてしまう。
さらに別の選択肢として、マレスカも存在する。シャビ・アロンソ同様、彼もチェルシー解任後にフリーとなっており、夏にはその去就がひと際注目を集めることになる。シティもかつて在籍した指揮官を高く評価しており、U-21チームを優勝に導いたこと、さらにグアルディオラのアシスタントとして三冠達成に貢献したことはよく知っているはずだ。志向するチームスタイルもグアルディオラとよく似ており、レスターでの昇格、さらにチェルシーでのUEFAカンファレンスリーグとクラブワールドカップ優勝など実績も十分だ。
だが、マレスカも会見での振る舞いやその去り方は懸念すべきだ。率直すぎるがあまり公の場で対立を煽るようなコメントや振る舞いを残し、またクラブ上層部への不満をはっきりという姿勢には賛否あるだろう。現代フットボールにおいても欠かせないファンの支持を得るという部分でネックになる可能性はある。そう、ちょうど隣人がそのような指揮官をポルトガルから2回連れてきた結果、どうなったかを忘れてはいけない。
これまで様々な候補の名前を挙げたが、つまるところ、後任にグアルディオラと同じ成功を期待してはいけないのだ。彼は史上最も成功した指揮官であり、唯一無二の存在だ。それは忘れてはいけないし、シティのファンは今の成功を当たり前と捉えてはいけないのである。
だからこそ後継者探しは困難を極めるし、失敗も許されない。シティは“隣人の警告”にしっかりと耳を傾け、いずれ来るであろう時までに彼らなりの正解を導かなければならないのだ。