傷ついたチーム同士のカップ戦ファイナルだ。
4月3日に行われた2019-2020シーズンのコパ・デル・レイ決勝(パンデミックの影響で順延されていた)に続き、今週末(日本時間18日4:30キックオフ)はアトレティック・クルブ(アスレティック・ビルバオ)とバルセロナによる今季のコパ決勝が開催される。
2年連続のファイナリストであるアトレティックは、バスク・ダービーとなった昨季決勝でレアル・ソシエダに0-1で敗れた。その心の傷が癒えないまま、今回の決勝を迎える。加えて、コパ連覇の夢が途絶えたどころか、今は「無冠」のプレッシャーがかかる状態となっており、バルサ相手の決勝では相手と同時にその心理的恐怖にも打ち勝つ必要がある。
対するバルサも直近のエル・クラシコで敗れたことで精神的な立て直しが急務の状態だ。クラシコ前までラ・リーガ19戦で16勝3分と快進撃を続けていたが、DFラインの主力に欠場者が相次いだレアル・マドリード相手に力負けを喫した。
翌日にベティスと引き分けた首位アトレティコ・マドリードとの勝ち点差は2と、依然リーグタイトルを射程に捉えた状況ではあるが、この決勝で敗れることになればクラシコ前の「ドブレーテ(二冠)」の期待は一気にしぼみ、再び「無冠」のプレッシャーが降り掛かってくる。

両チームともに追い込まれた状況だからこそ、両指揮官には心理面でのマネジメントが求められる。アトレティックのマルセリーノ監督は、ラ・レアルとのコパ決勝直後のラ・リーガでの再戦で決勝と同じスタメンを起用。チームにとっては決勝での屈辱を再燃させる罰ゲームのようなダービーとなったが、指揮官は選手たちに責任を求めた。
結果は1-1の引き分けに終わり、ジェライ、ユーリの2名が負傷交代する代償も伴ったが、マルセリーノ監督らしい荒療治でチームからは反骨心が窺えた。
続く30節アラベス戦ではGKウナイ・シモン以外のフィールド10名をごっそりと替えるターンオーバー採用で主力を休ませた。指揮官曰く「ダービーを2試合戦ったことでの消耗が激しかったため」だが、心身両面でのコンディションを上げることには成功。当初、今回のコパ決勝出場が危ぶまれていたジェライとユーリも何とか間に合う予定で、マルセリーノ監督は間違いなく昨季決勝で敗れた先発を今回もリピートしてくるはず。
バルサのロナルド・クーマン監督はエル・クラシコでの敗戦後、83分のマルティン・ブライスワイトがフェルラン・メンディに倒されたシーンでVARが介入しなかった疑惑の判定に激昂した。偶然の産物だろうが、批判の矛先が自分自身に向けられることになり、選手たちが批判の矢面に立つことなく今回のコパ決勝を迎えることができる。
怪我人についてもクラシコでセルジ・ロベルトが復帰し、ジェラール・ピケもこの決勝には間に合う模様。バルサにとっては1月のスーペル・コパ決勝でアトレティックに敗れた悔しさもまだ記憶に新しいところ。そのリベンジファイナルにもなる。
その決勝で選手キャリア初の一発退場をくらったリオネル・メッシにとっても、アトレティックを相手にした決勝は普段以上の意欲が湧く試合となりそうだ。

戦術的にはアトレティック側に新たな戦い方への適応が求められる。1月のスーペル・コパの時と異なり、バルサが3バックのシステムに変わったからだ。
4-4-2のアトレティックはハイプレスを仕掛けることで守備からイニシアチブを握りにいくと予想するが、相手の3バックに対して前線2トップのイニャキ・ウィリアムス、ラウール・ガルシアを当てたとしても数的不利。そのため2トップの脇からボールを運ばれた時の陣形をどう設定するのかがポイントとなる。
バルサにとってもアトレティックのコンパクトな4-4-2の3ライン、守備陣形を崩すのは至難の業。メッシがライン間でパスを受けることも容易ではなく、自分たちがボールを支配する展開となれば、ウスマン・デンベレがDFライン背後に抜け出すカウンターの機会もそう簡単には作れない。
序盤こそアグレッシブに前からプレッシングをかけられるだろうが、バルサは引いて守られる展開、時間帯でどう相手を崩すか。エル・クラシコでも出た今季の課題だ。この決勝でその問題をどう解決するか。
傷つき、追い込まれた者同士の決戦ゆえに、ミスを恐れて静かな序盤の展開になることも可能性としてはあるが、アトレティックはその入り方で昨季のコパ決勝を敗れているだけに思い切って前から出てくるに違いない。
撃ち合いのオープンな展開となれば、ともにI・ウィリアムス、デンベレとスピードスターを擁するため、カウンターからの決定機は作りやすい。個人的には決勝らしくない、激しい撃ち合いになる可能性が高いと見る。
心理戦が続いた昨季のコパ決勝と打って変わり、ともにプレッシングとカウンターを繰り出す激しい展開になりそうな今季のコパ・デル・レイ決勝を見逃すな 。
文・小澤一郎
1977年生まれ、京都府出身。サッカージャーナリスト。社会人経験を経て2004年にスペインに移住。バレンシア在住歴5年、スペインでは育成年代の指導者経験もあり。現在は、DAZNでラ・リーガ中継の解説も務める。(株)アレナトーレ所属。
アスレティック・ビルバオ対バルセロナ
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