【コラム】 クラブの歴史を変えたあの旅から、もう14年。ヘタフェはカンプ・ノウ初勝利を目指す｜ ラ・リーガ

今日、ヘタフェはフットボールのエリート界に根を張っている。しかし2000年代初頭は、ラ・リーガ1部まで登り詰めるなど夢見てもいなかった。コパ・デル・レイで、カンプ・ノウを舞台にヨハン・クライフ率いるバルセロナと対戦した経験こそあったが、まさか1部のチームとして同じ舞台でさらに19回も試合をして4回も引き分けるなど考えられなかったのだ。勝利したことはまだ一度もないが、しかしヘタフェのカンプ・ノウ訪問には良い思い出がいくつもある。クラブの歴史を変えたあの旅からは、もう14年が経った。

あれはチームがコパ・デル・レイの準決勝まで進出し、バルセロナと対戦したときのこと。ヘタフェは労働者の町で、平日にカタルーニャまで行くことはとても困難だった。だが熱狂的なフットボールファンである当時の市長ペドロ・カストロが、信じられないアナウンスをしたのである。

「カンプ・ノウで試合を見たい人は、入場券だけを買えばいい。飛行機代は私が支払うさ」

こうして300人のアスロンたち（鮮やかな青、ヘタフェサポーターの愛称）が、飛行機に飛び乗った。私は記者としてレポートすべく彼らに同行し、一人ひとりの屈託のない笑顔に胸を熱くしたのだった。

あのカンプ・ノウの夜、私たちが目撃したのはもちろんヘタフェの勝利ではない。それでも歴史的な瞬間を目に焼き付けることができた。メッシがそのキャリアの中でもとりわけ美しいゴール、あのマラドーナを連想させた5人抜きゴールを決めたのだから。ヘタフェは2-5の大敗を喫したが、私もサポーターも世界最高の存在になることが約束された選手のゴラッソを見届け、運に恵まれたと感じていた。それにバルセロナとの対戦は2ndレグが残っていたのだから。

逆転突破は、帰りの飛行機から始まっていた。クラブの会長アンヘル・トーレスが、コリセウム・アルフォンソ・ペレスを満杯とするために入場券を破格の安さで販売すると宣言したのだ。「彼が信じるなら、俺たちも信じない理由はない」。歓喜のサポーターはそんなことを口にしていった。

このようにして迎えたコリセウムでのセカンドレグ、チームのドレッシングルームには、サポーターからメッセージが貼り付けられて、選手たちのモチベーションはマックスに。青色に染まったスタジアムで、不可能は可能になった。ヘタフェは4-0でバルセロナを下して史上初めて決勝に進出し、史上初めて欧州カップ戦出場権を獲得したのだった。

あの頃の、何もかも初めてだった日々が懐かしい。欧州スーパーリーグ発足が発表され、すぐに瓦解した今週、ヘタフェはコリセウムでレアル・マドリーと引き分け、そして22日にはバルセロナと対戦する。カンプ・ノウでの初勝利は決して簡単ではないが、しかし不可能でもない。今季ラ・リーガの前半戦、コリセウムでの対戦では勝利を収めているのだから。

夢見たカンプ・ノウでその才能を見せろ

ホセ・ボルダラスはミッドウィークの試合ということもあり、ローテーションを行わなくてはならない。マドリー戦で力を尽くした直後で、バルセロナ戦の後には残留争いの命運を左右するウエスカとの試合が控えているのだから。

久保建英がマドリー戦で1分もプレーできなかったことは、彼にとって大きな失望だったろう。私たち報道陣はマドリー戦後の練習を見ることがかなわなかったが、前を向いて、しっかりと汗を流していたならば、今回こそは出場機会を得られる。バルセロナと優勝争いを演じているマドリーも、彼が助けになってくれることを期待しているはずだ。

久保にとって今回の試合は、下部組織で過ごしたバルセロナへの帰還となる。彼はアレビン世代（10～11歳）のころ、1試合平均2.5ゴールという驚異的な成績を残しながら、カンプ・ノウでプレーすることを夢見ていた。しかし今は、青いユニフォームと白い心でそのスタジアムに乗り込むことになる。人生というものは、何が起こるか分からないものだ。ヘタフェで苦難の時期を過ごす彼にとって、この一戦が転換点となる可能性だってある。少なくとも、秘めている才能は確かなものなのだから。

文／ホセ・アントニオ・デ・ラ・ロサ、スペイン『アス』紙ヘタフェ番

翻訳＝ 江間慎一郎

1983年生まれ。東京出身。携帯サッカーサイトの編集職を務めた後にフリーのサッカージャーナリスト・翻訳家となり、スペインのマドリードを拠点に活動する。 寄稿する媒体は「GOAL」「フットボール批評」「フットボールチャンネル」「スポニチ」「Number」など。文学的アプローチを特徴とする独創性が際立つ記事を執筆、翻訳している。