【欧州・海外サッカー 特集】壊滅的なドーピング暫定処分から約13カ月、チェルシー(プレミアリーグ)での最後の出場から約14カ月……ミハイロ・ムドリクは忘れられた存在となっている。
チェルシーは2023年1月、歴史的な投資を行ったこの移籍市場でミハイロ・ムドリクの獲得に最大8900万ポンドを投じた。トップレベルでの経験が限られていた選手としては異例の金額だったが、このウクライナ代表の才能は世界中で高く評価されていた。だからこそチェルシーは、アーセナルとの争奪戦を制すために全力を尽くしたのである。
あれから約3年、ムドリクのキャリアを予想できた人はいないだろう。今や彼の存在は、チェルシーで忘れられたものとなっている。
約3年前、ムドリクはSNSで度々アーセナルへの移籍をほのめかしていた。移籍は決定的と報じていたメディアもあった。しかし、最終的には同じロンドンのライバルへと移籍している。『The Athletic』によると、当時22歳だった彼はチェルシーのオファーと同じ条件をアーセナルが提示しなかったことに大きなショックを受けたという。
だが皮肉なことに、アーセナルは「危機を回避できた」と考えているに違いない。2022-23シーズンのチェルシーは指揮官を3人変えるという混乱期であったが、ムドリクはイングランドの激しさに順応できず、十分な出場機会も確保できなかった。その翌シーズンも、その翌々シーズンもポテンシャルを発揮することはできなかった。そして、事態はさらに悪化することになる。
ウクライナ代表に合流中の2024年11月、ムドリクは薬物検査で陽性反応を示した。禁止薬物メルドニウムの陽性反応が発覚したのである。この物質は通常、心臓疾患の治療に用いられるが、アスリートの持久力や回復力を高める効果もある。元プロテニスプレイヤーのマリア・シャラポワも2016年に同物質で陽性反応を示し2年間の出場停止処分を受けている(後にスポーツ仲裁裁判所(CAS)への上訴により処分が軽減)。
発覚当時、ムドリクは「イギリスではメルドニウムが入手不可能」と主張したと報じられた。2024年12月、出場停止処分を知った後の声明では「故意に違法物質を摂取したことは一度もない」と述べている。
「本当にショックだ。意図的に禁止物質を使用したことも、規則を破ったこともない。チームと緊密に連携し、この事態が起きた経緯を調査中している」
ムドリクは自身の主張を裏付ける未検証の嘘発見器テストに合格したとされている。しかし数カ月の暫定的な出場停止処分を経て、2025年6月にFAドーピング防止規則違反で正式起訴されると、調査は今も継続している。しかし最悪の場合、フットボール界から4年間追放される可能性も残っているのだ。
暫定的な出場停止処分を受けてから数週間、数カ月の間、ムドリクのSNS投稿は大幅に減少。最後に公の場に姿を見せたのは2025年5月、ポーランドのヴロツワフで開催されたカンファレンスリーグ決勝戦を個人的に観戦、チームの優勝を祝ったことが確認されている。
『BBC』によると、現在のムドリクはほとんどの時間をロンドンで過ごし、敬虔なキリスト教徒として定期的に教会に通っているという。しかし出場停止処分が続いており、チームメイトとの合同練習には参加できず、クラブ施設コブハムとは別の場所で個人コーチとトレーニングを続けているようだ。
チェルシー側は彼の進捗を注視しているとされるが、クラブ施設やチームメイトへのアクセスは「極めて限定的」と説明されている。また9月には、交通法規を繰り返し違反したとして6カ月の運転禁止処分を受けた。
チェルシーは13カ月前にムドリクの暫定的な出場停止を容認して以来、調査結果を待つ間は沈黙を保っている。だが、彼の古巣シャフタールはアカデミー出身選手を擁護する姿勢を明確にしている。
シャフタール・ドネツクは、ムドリクが依然として出場できないために最大2600万ポンドの移籍ボーナスを失う可能性に直面している。スポーツダイレクターでありクロアチア代表のレジェンドであるダリオ・スルナは、最近『BBC』に対し次のように語った。
「ムドリクについて話す時、我々は金銭についてではなく、人間について話している。彼を心から気の毒に思っている。100%無実だと確信しているよ。その証拠は必ず示されるだろう。我々は元選手として、人間として、友人として彼を支える。金銭は重要ではないんだ」
ドーピング違反で処分を受けた選手といえば、直近ではポール・ポグバが例に挙がるだろう。ユヴェントス在籍中の2023年9月、DHEA(テストステロン値を自然に上昇させる禁止ホルモン)の陽性反応を示したことが発覚。ムドリク同様、即時暫定出場停止処分を受けた。代理人ラファエラ・ピメンタは「唯一確かなのは、ポール・ポグバがルールを破る意図は全くなかったということだ」とコメント。しかしそれから5カ月後、イタリアのアンチドーピング機関から4年間の出場停止処分が下された。
その後CASへの上訴により処分は18カ月に減刑。CASはポグバがアメリカの医師から処方されたサプリメントを意図せず摂取した事実を認めたものの、プロスポーツ選手としての不注意を理由に「過失がないわけではない」と判断した。処分は遡及適用され、ポグバは2025年3月に競技復帰が可能となり、現在はモナコでキャリアを再開している。
この事例はムドリクに対する先例となり得るものであり、最終的な処分内容の目安を示すものだ。ただし、最初の裁定が下されるまでにさらに数カ月の出場停止処分が科される可能性もある。興味深いことに、彼はポグバと同じ法律事務所を雇い、自身の件を争っている。
FAはドーピング事件を非公開で処理しており、調査の進捗状況や時期、結果については一切明らかにしていない。それでも最近では、選手と所属クラブから前向きな動きが確認できる。
ムドリクは自身の『Instagram』ストーリーで、2026年の年明けを祝いサポーターへ「応援に心から感謝している。みんなのメッセージは全て目にしているし、本当にありがたく思っている。だから僕見捨てないでほしい。僕自身も決して諦めないから。 近いうちに会えるのを楽しみにしているよ」とメッセージを送った。
それから数日後、チェルシーは25歳の誕生日を迎えたムドリクを公式SNSで祝福した。これは最近、出場機会を失ったラヒーム・スターリングには示されなかった配慮だ。もちろん、このささやかなサポートが意味を持つかは不明だ。ネガティブな見方をすれば、クラブがムドリクの市場価値を守ろうとしているだけで、彼の潔白を示唆しているわけではないかもしれない。
こうした前向きな兆候はあるものの、現実的に考えれば、すでにムドリクはチェルシーで最後の公式戦を戦った可能性は高い。FAから正式に出場停止処分を受けた場合、契約を解除することは十分に考えられる。
そしてチェルシーは、すでに彼抜きで長期的なプランを作っている。昨夏には同ポジションにジェイミー・ギッテンズとアレハンドロ・ガルナチョを獲得し、さらに若き天才エステバオ・ウィリアンも加入した。さらに、ムドリクの背番号も剥奪されている。彼が着用していた背番号10は、エースであるコール・パーマーの手に渡った。
これらすべてが、彼の結末に関わらず、チェルシーでの時間が終わりに近づいていることを示唆しているだろう。
ムドリクにとって最も深刻な問題は、たとえ無実を主張し続けたとしても、処分は避けられないことだ。FAのドーピング防止規則では、禁止物質を摂取する意図の有無は責任の有無に影響せず、知らずに摂取したと主張しても法廷で通用する弁解とはならない。
本質的に、選手の体内から禁止物質が検出されれば、その物質がどのように体内に入ったかに関わらず、ドーピング違反の有罪判決が下される。最悪の場合、ムドリクは4年間の出場停止処分を受ける可能性はある。これは世界アンチ・ドーピング機関(WADA)の規定に基づく標準的な処分期間だ。
仮にCASへの上訴でポグバのように18カ月に減刑された場合、仮処分が適用された2024年12月に遡及適用されるため、2026年6月までは復帰資格を得られない。だが彼の場合、調査は複雑化している。これはイタリア当局がポグバに対する判断を下す期間よりも、FAが大幅に長い時間を要しているという事実に表れている。そして処分決定後にムドリクがCASに上訴した場合、その審理まではさらに時間がかかるだろう。
もしすべてがうまくいき、夏にも復帰が可能となった場合、チェルシーはチームに復帰させてサポートしつつ、移籍市場で彼の新天地を探すことになるだろう。最初はレンタルだとしても、おそらく最終的には完全移籍での放出を考えているはずだ。今のチームは、彼なしでもう動き出している。こんなことを予想できた人間は誰もいないだろうが、アーセナルとの争奪戦を制すために投じた8900万ポンドは、そのほとんどが損失として計上されることになりそうだ。