今季限りで現役を引退した楠本泰史氏は、7年間を過ごしたDeNAを2024年限りで戦力外となり、阪神に移籍した。入団会見で報道陣の多さに「FAで来たわけじゃないのに」と衝撃を受けるなど、違う環境で過ごした時間は新鮮そのものだった。今季は2年ぶりにリーグ優勝を果たすなど7年連続Aクラスという“強さの秘訣”にも触れることができた。
2024年12月3日、西宮市内で阪神の入団会見に臨んだ。まばゆいばかりのフラッシュに、ただただ驚いた。「ベイスターズの記者さんの数しか知らなかったので……。その感覚で行ったら、3倍か4倍くらいの報道陣がいらっしゃった。冗談交じりに『FAじゃなくて戦力外で拾ってもらった身なのに、なんでこんなに記者の方が来てくださるんですか』と聞いてしまったくらい。それだけ注目度が高い球団なんだというのは、入団会見のときに感じました」。
楠本は阪神で過ごした今季を「あるはずのなかったプロ野球8年目」と表現する。DeNAを戦力外となり、一度は野球ができなくなるかもしれないという覚悟も背負った。そんなときに手を差し伸べてくれた阪神のため、自身が努力するだけでなく、後輩たちにも惜しみなく経験を伝え、アドバイスも送った。
「1回死んだ身だから失うものは何も無いし、本当にやるだけ。感謝の気持ちだけは忘れずに1年間過ごそうと思っていたので、毎日悔いなくというか、楽しく過ごせました。新たな人と出会えて、違う学びを得たり、すごくいろいろな話ができました」
自身が所属した2球団について「真逆でした。だから面白かったです」と笑う。勢いのある若手が多いDeNAに7年間所属していただけに「明るいのもいいと思いますけど、どっちのよさも知れたなという感じです。こういうところがいいとか、こういうところが足りないとか、比較することができました」とうなずいた。
阪神でプレーする中で、強さを実感することが何度もあったのだという。「一喜一憂しないというか、心の波が少ない選手が多かったです。もちろん勝った喜びや負けた悔しさはみんな持っていますけど、それを表情や行動に出さずに、目の前の仕事というか、やるべきことを淡々とこなしていく。ベイスターズにはあまりいないタイプの選手が多かったので、タイガースの選手の方が独り立ちしているなと。大人な感覚で野球をやっているというか、仲良ければいいっていうもんじゃないなというのはすごく感じました」。
阪神では1軍16試合で打率.133に終わったが、ファーム暮らしでも腐ることなく努力を続けたこと、若手の手本となったことは、在籍1年ながらプロスカウトに就任することからも明らかだろう。両球団を経験したことで、今後の野球人生に役立つであろう大切な感覚も得ることができた。(町田利衣 / Rie Machida)