ハビ・ゲラ：バレンシアから発掘された次なるダイヤモンド【Hidden Gems FC パート4】

『GOAL』がお送りする新コーナー、「Hidden Gems FC」。かつてレスターで一時代を席巻したエンゴロ・カンテやリヤド・アマフレズのように、キャリア初期はあまり注目が集まっていなかったものの、今や世界最高レベルでの活躍が期待できるポテンシャルを秘めた各国リーグの選手にスポットライトを当てる。そして「Hidden Gems FC」第4弾は、バレンシアのMFハビ・ゲラだ。

ジョセップ・ボッシュは、彼が多くの時間を過ごす場所にいる。ボッシュはいつものように、今朝もクローゼットからお気に入りの一つを取り出した。赤いアディダスのスポーツシャツで、シンプルながら胸元に愛するロゴが光る。

それはUDプチョルのエンブレムだ。このクラブ名を知っているのは、最も熱狂的なサッカーファンだけだろう。プチョルはバレンシア地方のアマチュアチームだ。しかし、多くのファンはプチョルのロゴの形状を推測できるだろう。クラブのエンブレムの上に休むコウモリは、バレンシアの伝説的なエンブレムと似ている。

コウモリはバレンシア市のシンボルだ。その由来には様々な説がある。一部の人々は歴史的な背景を指摘する。1238年、アラゴン王ジェームズ1世はサラセンの支配者との激しい戦争の末、都市を奪還した。

勝利の旗にコウモリが止まったのを見たジェームズ1世は、これを吉兆の兆候と捉えた。以来、コウモリはバレンシアの象徴となった。別の説はより単純だ。この地域ではコウモリが非常に多く生息しているからだ。

2023年に戻ろう。現在、バレンシアCFのメディアチームがアマチュアのグラウンドを訪問していた。インタビューは始まったばかりだが、ボッシュの興奮は隠せません。

「16歳からトレーナーをしているが、この選手だけは『この子がプロサッカー選手になれなかったら、誰もなれない』と思った唯一の選手」と、6度のラ・リーガ優勝チームのメディアチームに誇らしげに語っている。

すべてが始まった場所

ボッシュはハビ・ゲラを指す。プチョルでは、サッカー選手でありテニス愛好家としても知られるこの選手が有名だ。ゲラは2003年に人口3,800人ほどの小さな村ギレットで生まれ、5歳の頃、プチョルでサッカーを始めた。

「登録されていなかった」と、ミッドフィールダーのゲラは『クラブ・デル・デポルティスタ』とのインタビューで回想する。「年齢が若く、年上の選手たちとプレーしていたからね」。そのため、プチョルの赤と白のユニフォームを着る期間は短かった。

「クラスメートの父親がビジャレアルのコーチだった。ある日、彼が私をプレーしているのを見て、何かを見出したのだろう。ビジャレアルのトライアルに参加するように誘われた。合格し、そこでプレーを始めた」

若いゲラと家族にとって、それは簡単なことではなかった。幸いなことに、祖父が助け舟を出した。プチョルとビジャレアルの間、50キロの距離を毎日往復して運転してくれた。「最初は運転免許がなかったので、電車で行かざるを得なかった」と、才能ある選手は数年後に『マルカ』に語った。

「学校のトイレで服を着替えて、学校の制服をトレーニングウェアに替えた。あの思い出は今でもとても大切にしているよ。祖父は僕がサッカーを始めるまで、サッカーのファンではなかった。それ以来、特に僕を見るために応援に来てくれている。唯一の欠点は、今や家ですべてを聞かれることだね」と、家族思いの選手はそう笑った。

大ブレイク

祖父は、2023年4月16日にバルセロナがビジャレアルからほぼ100万ユーロを支払って獲得したゲラが、バルセロナのファーストチームでデビューする姿を目撃できたことを、非常に誇りに思ったことだろう。

11日後、彼は家族をさらに誇りにさせた。彼らは緊張しながら、バレンシアとレアル・バリャドリーが1-1の引き分けで終わるかどうかの試合を観戦していた。降格を回避するために戦う両クラブにとって無意味な結果だった。ゲラの家族はタッチラインを見つめ続けたまま、ついにその瞬間が訪れた。4審が電子ボードを手に取り、番号36が緑色に点灯した。ゲラのデビューだ。

数分後、彼らの愛する息子は、密かに夢見ていたことをまさに実行した。鋭いスピードで直接の相手をかわし、左足でボールをゴールの上隅に突き刺した。メスタージャが爆発し、ゲラはピッチとスタンドの両方で抑えきれない喜びの渦中にいた。間違いなく、祖父は涙を浮かべながら見守っていた。

 

才能の宝庫のバレンシア

21世紀初頭、バレンシアはスペインサッカーの誇りだった。しかし現在、かつての強豪は苦境に立たされ、必死に生き残りを懸けて戦っている。昨シーズンは、シーズン後半の驚異的な巻き返しで辛うじて残留。冬のブレイク時、ロス・チェス（バレンシアの愛称）は19位で降格寸前の状況だった。

一方で、バレンシアは5大リーグのクラブで最も若い選手層を誇る。選手の平均年齢はわずか23.99歳で、チームが才能に溢れていることは明らかです。ヤレク・ガシオロフスキは、PSVへの移籍でバレンシアに1000万ユーロをもたらした。

または、センターバックのクリスティアン・モスケラもすでにチームを去った選手の一人だ。アーセナルは彼を獲得するために1500万ユーロを支払った。ゲラは、財政難に直面するバレンシアに大きな利益をもたらす可能性のある次の選手だ。

最大の強み

レアル・バジャドリー戦でのゴールはまさにゲラらしいプレーだ。彼は相手選手と1対1の局面を好む。同ポジションの選手と比較すると、彼は最も成功した1対1の突破を最も多く記録したミッドフィールダーの15%にランクインしている。

「プログレッシブ・キャリー（ボールを少なくとも10ヤード前方に運ぶ回数）」という統計では、ゲラは際立った成績を残す。典型的なボックス・トゥ・ボックス型ミッドフィールダーであり、守備面で活発だ。ゲラはヨーロッパの23歳以下のミッドフィールダーで、50回以上のタックルと50回以上のドリブル突破を両立させた6人のうちの1人なのである。

バレンシアは、小柄ながら技術的に驚異的なミッドフィールダーを輩出することで繁栄してきた。ダビド・シルバ、フアン・マタ、イスコはゲラの輝かしい先達であり、過去10年間で最高峰のレベルでプレーしてきた。

ゲラは、例外的に創造的な選手というカテゴリーには完全に当てはまらない。スペイン人として当然の技術的な能力は持っているが、187cmの堂々とした体格が、彼を根本的に異なるタイプの選手にしている。

ゲラはよりアスリートである。前線へ積極的に押し上げ、ペナルティエリアへ侵入しようとするダイナミックなミッドフィールダーだ。当然ながら、スタミナは彼の最大の長所の1つで、身体的に強く、積極的にプレスをかけ、何よりも相手のゴールへできるだけ早く到達したいと考えている。

ピッチ外では、ゲラは攻撃的なプレーから落ち着いた態度に切り替える。

「友達や家族と普通のことをするのが好きな普通の男さ。人々は僕が謙虚だと言うけど、自信がある時は冗談も言うよ」

両足使いは彼に追加の武器を提供する。そしておそらく最大の特徴と言えるのがシュート能力だ。ボッシュはプチョル時代からこの才能を即座に認めた。「フリーキックは確実なゴールだった」と、5歳のゲラについて回想する。「しかしペナルティキックはね……クロスバーに当たるのが精一杯だった。彼は決して手加減せず、常に過剰な力でシュートを放った」。

現在のデータもゲラがシュートを愛していることを証明している。ボックス・トゥ・ボックスのミッドフィールダーである彼は、90分あたり平均1.64回のシュートを放ち、そのポジションでその点において最も優れた選手の一人となっている。ゲラは昨シーズンの前半戦に苦戦したが、カルロス・コルベランの就任が彼の成長に不可欠だった。

国際経験

それまで、バレンシアはリーグ19位に沈み、40年ぶりの降格危機に直面していた。しかし、冬のブレイク後に指揮を執るコルベランの登場で、状況は一変する。レアル・マドリー、バルセロナ、アトレティコ・マドリーには及ばないものの、それ以外の試合ではわずか2敗しか喫さない好成績を残す。

苦境に立たされていたチームは士気と調子を回復し、21試合中9勝を挙げ（冬季中断前の17試合中2勝から大幅改善）欧州大会出場権を争うまでに。「コルベランは僕に自由と自信を与えてくれた。彼は僕にとって非常に素晴らしい存在だ」と、 ゲラは『カデナ・セル』で 語った。

バレンシアは19位から急速に順位を上げて、最終的に12位でシーズンを締めくくった。

ゲラは個人としてもシーズン後半に素晴らしい活躍を見せた。ほぼ毎週90分間フル出場し、3得点2アシストでチームの成績に大きく貢献。年の終わりには、スペイン代表としてU-21欧州選手権が待っていた。

そこで、U-21スペイン代表で21試合に出場したゲラは、再びその才能を輝かせた。スロバキアとのグループリーグ戦後、ゲラはマン・オブ・ザ・マッチに選出。準々決勝では優勝候補のイングランドが待ち受けていた。1得点を挙げたものの、ゲラは最終的に優勝した相手を阻止できず、3-1で敗れた。

次に向かうは？

ゲラが世界舞台で名を馳せた。そのため、彼が様々な海外の強豪クラブとリンクされていることは驚くべきことではない。今月早々、複数のメディアがミランの具体的な関心を報じた。 ロッソネリはミッドフィールダーの獲得に2000万ユーロを支払う用意があるとされているが、バレンシアはさらに1000万ユーロを上乗せすることを希望している。

さらに根強いのは、マンチェスター・ユナイテッドへの移籍の噂。同クラブは依然として新たなミッドフィールダーを探し求めている。アストン・ヴィラのウナイ・エメリ監督も、同郷のスペイン人選手をプレミアリーグに招きたいと考えているようだ。昨夏、ゲラはバレンシアを離れる寸前までいったが、最終的にアトレティコ・マドリーへの移籍は実現しなかった。

若き選手にとって多忙な時期だった。「バレンシアに残ることに決まり、正直言って嬉しかった」と、彼は6月に『ラ・セスタ』に語る。

「今夏アトレティコから再びオファーがあれば？絶対にないとは言えないが、バレンシアに残りたい。それが最優先だ。何か狂ったことが起こらなければ、ここに残る」

何か『異常なことが起こる』かどうかは不明だ。バレンシアは資金が必要で、プレミアリーグは間違いなく資金を投入する用意がある。しかし、ゲラの祖父が望むなら、愛する孫が故郷に近い場所でサッカーを続けることを願っているだろう