文=ハビエル・シジェス(Javier Silles)/ スペイン紙『アス』副編集長
企画・翻訳・構成= 江間慎一郎
残念ながら、今のレアル・マドリーが昨季収めた成功を再現できるとは、私には到底思えない。
“彼らはレアル・マドリーだから”という、このチームだけが持つ神秘性、神通力ゆえに成功をつかむ可能性はゼロではないのかもしれない。しかしフットボールの理論に基づけば、マドリーは彼ら以外の強豪チームと比べて、明らかに見劣りしている。たとえ個々のプレーが突出しているとしても、チームとしてのプレーが成立していないのだから。
マドリーが抱えている問題は、すべてが短期間で解決できるものではない。だが少なくとも、ピッチ上のパフォーマンスについてはまだ修正が利く。アンチェロッティも選手たちも、できる限りのことをしなければ、先行きは暗いままだろう。
■崩壊する攻守のバランス
マドリーの命運はボールを持っていないときのプレーにかかっている。攻撃面については(よく練られたプレーアイデアというよりも)個々のタレントでどうにかなりそうだが、しかし守備面は早急な改善が必要だ。
ここ最近は、ロドリゴがヴィニシウスのポジションである左サイドでプレーすべきかどうか、という論争が巻き起こっている。しかし、アンチェロッティが最優先で解決すべき問題は、ベリンガム、ロドリゴ、エンバペ、ヴィニシウスのクアトロ・ファンタスティコ(ファンタスティック・フォー)を維持していくのかどうか、また維持するとすれば、それで攻守のバランスが取れるのかどうか、となるはずだ。
2-5で敗れたスーペルコパ決勝バルセロナ戦をはじめとして、マドリーのビッグマッチでのパフォーマンスを見る限り、彼ら4人を今のような状態で保つことは難しいように思える。今のマドリーは攻守のバランスが取れておらず、前からのプレスも後退守備も機能していない。守備時にはライン間やサイドに大きなスペースが空き、それを塞ぐ人員も不足している。……たとえ全能のバルベルデがいても、船体に無数の穴が空いていれば、漏れ出る水をすべて汲み出すことは不可能だ。
■守備の構造的な問題
マドリーの脆弱さは、構造的な問題に由来する。前線の選手たちの守備意識が低いために、チームとしてのプレーが大きく損なわれているのだ。ヴィニシウスが相対するサイドバックをまったく追わないのは、やはり看過できることではない。中央のエンバペが相手のパスコース塞ごうとしないのも同様である。
最前線の2人に守備をする気がなく、常にファーストラインが破られている状況であれば、相手は後ろから容易に攻撃を構築でき、対してマドリーの中盤は前に出るべきか残るべきかを迷うことになる。こうしてマドリーのFWとMF、(両センターバックも前に出られないために)MFのDFのライン間のスペースは広がり、状況は悪化の一途をたどっていく。そもそもマドリーは後方に走って守れるチームではない。その点で優れているのはバルベルデだけで、両サイドバックにも、ここ最近に居場所を手にしたセバージョスにも後ろに走りながら守る能力はない。エスパニョール戦の失点は、これらの弱点をまざまざと表していた。
■センターバックの不足Getty Images
マドリーはブロック守備だけでなく、ペナルティーエリア付近での守備も脆い。これはもう隠しようのない弱点だが、人手もさらに減っているために、事態は深刻さを増す一方である。アトレティコ・デ・マドリーとのリーガ首位決戦、マンチェスター・シティとのチャンピオンズリーグ決勝プレーオフで起用可能なセンターバックがラウール・アセンシオ&ハコボというBチームの2選手だけというのは……、陣容づくりの怠慢としか言いようがない。
長期離脱から復帰したばかりのアラバはともかく(完全復活までのプロセスで筋肉系の問題は生じやすい)、リュディガーも負傷離脱を強いられたのは不運なのかもしれない。だが昨夏にヨロの獲得を見送り、ナチョ退団の穴を埋めなかったクラブ首脳陣の判断は完全に誤りだった。アンチェロッティはチュアメニをセンターバックで起用しているが、正直なところハマっていない。現在、このフランス人MFのプレーレベルはマドリーの水準に達しておらず、中盤でフィジカルの強さを発揮するくらいしか使い道がない。
マドリーは相手のクロス攻撃に苦慮し続けている。マークは簡単にズレてしまい、サイドバックの守りも中途半端……。アタッカーが本職のルーカス・バスケスが守備面で過剰なほど批判を受けているのは、今のマドリーの問題を象徴していると言えるだろう。また守護神のクルトワも、今季は「彼も人間だったのか」と感じさせるプレーを見せている。まあ彼についてはどんなときにも輝きを取り戻す可能性があるが。
■解決策を提示できないアンチェロッティ
マドリーの守備面でのしくじりは、全選手が関わっていることであり、もちろんアンチェロッティもその責任から逃れることはできない。イタリア人指揮官は、解決策をずっと見出せないでいるのだから。
今季のマドリーも、重要な試合ではこれまで同様に低い位置でブロックを形成して、守備から攻撃へのトランジションでゴールを狙おうとしている。が、そのゲームプランは通用しなくなってしまった。
以前のマドリーはもう少し守備がしっかりしていたし、そこにクルトワの奇跡的なセーブや運も合わさって、綱渡りのようなギリギリのところで“生き延びる力”があった。だが今季のマドリーに、そうしたことは望むべくもない。トランジションからの攻撃は相変わらず威力十分だが、しかし守備が足を引っ張っていて、速攻を仕掛ける機会自体が減ってしまった。
かてて加えて、今季のマドリーはボールを保持した際の攻撃も単調だ。相手が守りを固めてしまえば、それを打ち破るために多大な苦労を強いられている。クロースが抜けた穴はやはり大きく、彼らのボール回しやオフ・ザ・ボールの動きからは機敏さが失われた。セバージョスが一歩前に踏み出し、基準を満たすゲームメイクを見せてはいるものの、それでもクロースのような効果的なサイドチェンジは出せていない。
■クアトロ・ファンタスティコスの可能性Getty Images
またクアトロ・ファンタスティコスについては、似通ったエリアでプレーしようとする悪癖がある。とりわけロドリゴ、ヴィニシウス、またはL・バスケスが幅を取ることを忘れて、全員が中央でのプレーに執着するのはいただけない。
ただし「最初はどう動けばいいか迷っていた」というエンバペが連係を確立しつつあり、ロドリゴがインスピレーションあふれるプレーを連発し、ベリンガムがあらゆるところに顔を出して……と、彼らはファンタスティック・フォーの呼び名が上辺だけではないことを感じさせ始めてもいる。あとは昨年12月から著しく調子を落とすヴィニシウスが目覚めれば、マドリーの攻撃はあらゆる弱点を覆い尽くすほどの力を示せる可能性はある。……そう、マドリーが秘めている攻撃力を考えれば、やはり彼らが抱えている最たる問題は守備なのだ。ヴィニシウス&エンバペから、しっかり守ることなのだ。
マドリーが今のままで成功をつかめるとは思えない。しかし攻撃陣を中心として、彼らほどポテンシャルが高いチームがほかに存在しないのも、また確かだ。スペイン、ひいては欧州で、リヴァプール以外に確固たる強さを示しているチームがいないのは好都合だろう。マドリーは今現在、すべてが可能で、すべてが不可能な場所に立っている。センターバックの不足など解決不可の問題はともかくとして、攻守のバランスを整えるなど、改善できるところにはすぐメスを入れなければならない。そうでなければ、すべてが崩れていくだろう。
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