文=セバスティア・アドロベル(Sebastia Adrover)/マジョルカ地方紙『ディアリオ・デ・マジョルカ』
企画・翻訳・構成= 江間慎一郎
この日本人“も”、もう家族の一員だ。たとえ、まだスペイン語が話せなくたって。
スタッフもチームメートも、マジョルカのクラブ内にいる誰もが、彼のことを「タク」と呼ぶ。アサノという呼び方はもう記者とファンしか使わないし、そんな彼らにしたって日本で「浅野拓磨」と表記するという、この選手の虜になりつつある。
筋肉系の怪我によって一時期その姿を消していた浅野だが、ここにきてシーズン序盤に私たちに抱かせた期待を色鮮やかによみがえらせた。現在の彼は、“ジャガー”という愛称に違わぬスピード、爆発力のあるプレーで、チームの中でも最たる違いを生み出している。
ジャゴバ・アラサテ率いるマジョルカにとって、浅野は議論の余地なく、絶対不可欠なレギュラーとなったのだ。
◼︎不調のチームに現れた救世主
シーズン最後の直線に差し掛かる中、マジョルカにとって浅野は最高の贈り物となった。シーズン前半戦こそ好調だったチームは、2025年に入り5連敗を喫するなど大きく調子を落としていたが、唯一無二の特徴を持つ日本人FWが新鮮な風を吹き込んでくれた。
浅野は、速い。凄まじく、速い。速いだけでなく、繰り返し、何度でも、何度でも速い。執拗にDFラインを裏を狙って走り込み、突破すればチームの攻撃に深みを与える。こういった特徴の選手、格別のスピードスターは、今季のマジョルカにいなかった。
マジョルカのエースストライカー、ヴェダト・ムリチと浅野の相性も抜群だ。ここまで、わずかな時間しか一緒にプレーできなかったことが、本当に悔やまれる。浅野は前述の深みを取る突破からムリチに決定機を供給でき、一方のムリチも194センチの長身を生かしたポストプレーから、自分の周りを衛生のように動き回る浅野のフィニッシュを導ける。
マジョルカにとって彼らの連係は、間違いなく攻撃、ゴールの鍵を握る。前線の組み合わせにおいて彼らを起用する以上の、浅野をピッチに立たせる以上の最適解は存在しない。
Getty Images
◼︎浅野が与えた影響
アラサテにとって、浅野は大切なピースだった。9月下旬に負傷したこの日本人の復活を、マジョルカ指揮官は待ち詫び続けたのだ。
浅野の怪我が完治するまでには2カ月半を要し、コンディションが戻るまでにも時間が必要だったが、アラサテは100%の状態に戻った彼をためらうことなく先発で起用している。浅野が今季2ゴール目を記録した3月15日のラ・リーガ第28節エスパニョール戦(2-1)の直後、同監督はこんなことを語っていたのだった。
「私たちはずいぶん長い期間、アサノを戦力に数えることができなかった。最初に怪我、次に100%のコンディションに戻り切らなかったことでね。しかし現在、彼がどれだけチームに貢献してくれているかは見ての通りだよ。ゴールも決めてくれるが、決してそれだけの男ではない。何より、その鋭い動き出しが素晴らしい」
「このチームの中で、アサノほどにスペースをうまく生かせる選手はいない。今日は素晴らしいヘディングシュートも決めてくれた。そのゴールで観客の心に火をつけたね」
浅野が今季待望の初得点を決めたのは、そのエスパニョール戦からさらに2週間遡った第26節アラベス戦(1-1)のこと。あの豪快なボレーによる一撃は、まさにゴラッソ(ファインゴール)と呼ぶにふさわしかったが、彼はそのゴールだけに限らず試合を通して強烈な存在感を放ち続けている。
「アサノです」
「またアサノです」
「アサノ速い!」
「ゴーール、タクマ・アサノ! なんてゴラッソだ!」
「ここでもアサノが突破を狙う!」
「アサノ止まらない! また右サイドを抜け出した!」
右サイドを何度も突破する「アサノ」の名をスペインのテレビ、ラジオの実況がどれだけ連呼していたか……。あの試合は、浅野がマジョルカサポーターの心をつかんだ瞬間にもなった。サポーターは交代でベンチに下がった浅野に惜しみない喝采を送り、彼も拍手でもってそれに返答。あの瞬間、マジョルカ本拠地ソン・モッシュと、大久保嘉人、家長昭博、久保建英に次ぐクラブ4人目の日本人選手の間に、確かな絆が生まれたのだ。
マジョルカは2025年、浅野が先発復帰するまでの5試合を1分け5敗で終えたが、復帰後は2勝3分けと成績が上向いている。浅野は2ゴールで勝ち点4をもたらしただけでなく、ゴール以外のプレーの影響力も高い。チームを上昇気流に乗せているのは彼にほかならない。
◼︎マジョルカに溶け込む
浅野がマジョルカサポーターにその実力を認められたのはつい最近ことだが(中には、彼の走り方や体の動かし方がキリアン・エンバペに似ていると指摘する人たちもいる)、クラブやチームにはずいぶん前から溶け込んでいた。もちろん、スペイン語を習得していくことも大切で、実際に浅野は少しずつ話せるようになっているが(英語が話せることは似た単語も多いスペイン語学習の大きな助けとなる)、しかし彼は言語を超えたところで人とつながっていける素質や性格の持ち主でもあるようだ。Getty Images
浅野は加入して間もない頃から、チームメートが開く食事会に積極的に参加してきた。また休日にはクラブの個室で、チームメートたちと踊っている姿も目撃されている。それは彼が新たな居場所、新たな仲間たちにしっかり順応しようとする姿勢を表すものだ。
「チームメートたちとはピッチ内外でコミュニケーションを取っています。夕食にも一緒に行きますよ。皆、本当にフレンドリーで、ここは居心地が良いですね。彼らは様々なことで僕を助けてくれますし、ここにいられることに幸せに思います」
「僕はマジョルカのすべてが好きです。チームはもちろん、街は美しいですし、気候も最高です。食事も素晴らしいですね」
浅野の言葉には、マジョルカに住む人々を喜ばせる温かみがある。とはいえ、彼は決して優しいだけの男ではない。クラブ内ではそのプレーや親しみやすさのほか、浅野の日本人らしい真面目さ、プロ意識、さらに上を目指すメンタリティーについても大きく評価されている。マジョルカはシーズン前半戦の貯金によって、今なお欧州カップ出場権を十分狙える位置にいるが、浅野が意識しているのも、そこなのだ。
「何人かの選手は(残留すれば)もう十分だと思っているのかもしれません。でも、まだです。僕たちはもっとゴールを決めなくてはいけません。もっと勝利しなければいけません。もっと勝ち点を手にしなくてはいけません」
「僕たちは次の試合に、100%の力を注ぐ必要があります。その試合が終われば、次の一戦だけに集中しなければいけないんです」
“ジャガー”はマジョルカで、まだトップスピードに到達していない。このまま加速していけば今季最後の直線、さらには来季にチーム最大のスターになっている可能性もある。
ソン・モッシュは彼がスペインから世界へ、その咆哮を轟かすための絶好の舞台になり得る。私たちマジョルカの島民は、タクと呼ばれる日本からやって来た獰猛な獣の叫びを、両手を広げて獲物に襲いかかるようなあのポーズを、もっともっと見たいと願っている。
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