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【独占インタビュー】ブラックバーンの地で人々に愛される「背番号23」…大橋祐紀の旅路を突き動かす不動心

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大橋祐紀は昨夏、海外初挑戦の場として新天地をブラックバーン・ローヴァーズに求めた。初年度からチームの主軸として活躍する大橋は、2年目を迎えた今、何を思うのか。EFLチャンピオンシップに精通するジャーナリストが英国に飛び、話を聞いた。

取材・文=秋吉 圭


冬の英国の夕暮れは早い。茜色の景色すら目にすることは珍しく、16時を過ぎれば上空では青から黒へのグラデーションが強まっていく。肌寒く、冷たい風が体に刺さる。ここはイングランド北部、試される大地である。

栄枯盛衰。ブラックバーン本拠地イーウッド・パークの今の姿から、モダンで洒落た言葉を連想するのは難しい。煉瓦造りの立派なスタンドからは、イングランドならではの歴史が感じられる。ところどころ剥がれ落ちた足元のタイルには、このクラブのファンが近年経験する苦しみがにじみ出ている。彼らが当代きっての金満クラブとしてプレミアリーグを制したのは、今からちょうど30年前。1995年のことだ。

熱心なホームファンが集うブラックバーン・エンド・スタンドの目と鼻の先に、よくも悪くも当時の景色をそのまま残したようなクラブショップがある。決して最新鋭には見えないが、そのサイズ感はなかなかのものだ。

その外壁に、2025年のチームを牽引するエースストライカーの肖像があった。

「飛び込める環境があるなら飛び込む。ただそれだけ」

大橋祐紀は人気者だ。この日は12月3日、ミッドウィークのイプスウィッチ戦。様々な事情もあって寂しい客入りとなった中でも、スタメン発表時に挙がる歓声は他の選手たちのそれと一線を画している。ひたむきにプレイし、懸命に走り、貪欲にゴールを目指す。そんな大橋の姿が工業都市のサポーターの目にどう映るかは、全くもって想像に難くない。

「(ブラックバーンのファンは)いい人たちが多いです。去年からめっちゃよくしてくれてるんで。ありがたいですね」

サポーターも、家族を含めてよく面倒を見てくれるというチームメイトも、とにかくみんな人が優しい。だから大橋はイングランドでの生活が「めっちゃ好き」なのだという。彼が海外初挑戦の年齢としては比較的遅い28歳でブラックバーンに加入したのは昨年7月。挑戦が始まってから1年半の月日が経とうとしている。

「ずっと海外に行きたいとは思っていましたけど、Jリーグでもどこでもそんなにすぐ芽が出た選手ではないので、とにかく地道にっていう感じで。元から何かが決まってたというよりは、(ブラックバーンからの)話をもらって飛び込んだという感じですね。飛び込める環境があるなら飛び込むという、ただそれだけです」

名門ブラックバーンにとっての初の日本人……どころか初のアジア出身選手。もちろんそのサッカーのスタイルは日本と大きな違いがあると言うが、そのうえで「違うサッカーだけど、でもそれもサッカーなので」と続ける。そしてストライカーとして、「結果がすべてだと思う」と言葉を結ぶ。短い言葉の中に、彼の揺るぎない『核』を垣間見た気持ちになる。

周囲の環境が変わっても、大橋のスタンスに迷いはない

ohashi yuki(C)Getty Images

ここまでのブラックバーンでの日々を振り返れば、大橋の周囲では様々なことが変わった。第一に監督。大橋が加入した時の指揮官だったジョン・ユースティスは、残留争いが予想されたチームを2月に至るまで昇格プレーオフ争いに導いていたが、様々な事情から当時降格圏にいたダービー・カウンティ(最終的に残留)へと異例の転任。直後に就任したヴァレリアン・イシュマエルが現在に至るまでチームを率いている。

第二にシステム。加入時から今シーズンの序盤まで、ブラックバーンの最前線は基本的に1トップになることが多かった。その中で大橋は同時期に加入したフィジカル型のマフタル・ゲイェと定位置を争っており、今シーズンはそこにヘントからの新加入選手アンドリ・グジョンセン(エイドゥル・グジョンセンの息子)が加わっていた。

しかし10月中旬、10番の位置でレギュラー格だったキャプテンのトッド・カントウェルが負傷離脱したことを機に、システムは3ー1ー4ー2に変化。大橋はグジョンセンとの2トップでスタメン出場を続けている。

ohashi stats出典:best11scouting

「1トップでも2トップでも、どっちでもできるようにはしたいです。今は前に2人いることでチャンスになる回数は増えたと思うので、あとはそこを取れるか取れないかだと思います」

周囲にいかなる変化が生じようとも、大橋のプロサッカー選手としてのスタンスに迷いはない。イングランドに移籍したあとも、また2年目のシーズンへと向かう充足期間の中にあっても、彼がテーマとしてきたのは「継続」なのだという。プロ入り前から持ち続けている練習への意識、そこから派生したプラスアルファの取り組み。その中で監督の趣向、対戦相手によって異なるタスクを都度理解し、応えていくのが大橋流のやり方だ。 

「どのポジション、どんな環境でも結果を残さないといけない」

傍目に見れば、(それ単体でも決して悪い数字ではない)得点という形でのリターンを差し引いても、一貫したデータが示す守備貢献をはじめとした大橋が最前線で担う役割は、十分にチームの屋台骨になっているように感じられる。しかしそれでも、大橋はとにかく「結果」にこだわる。

ここで言う「結果」とは、改めて言うまでもなく、たった一つのスタッツを指す。

「毎試合、点を取りたいと思っているので。(今は)点を取れる時もあったり、取れない時もあったりですけど、取れるように練習から準備したいなと思っています」 

「(今のチームスタイルが自分に合っているかは)正直、特に考えてないですけど、とにかくどのポジション、どんな環境でも結果を残さないといけないと思っているので」

今シーズンからブラックバーンに加入し、大橋が「日本人同士フィーリングが似ている部分があり、受け手として非常に助かる」と語る森下龍矢は、1学年上の大橋のことを「背中で語るサムライ」と言っていた。確かにそんな感じがする。

さらにつけ加えるなら、決して世の中で最も雄弁なタイプではないのだとしても、大橋は「嘘偽りのない自らの言葉で語る」人物であるという印象を受ける。時に変化球のような角度から質問を投げかけても、それを弾き返してくるのはいつだって、彼の心の中核にある思想、信条であるようだった。

ohashi morishita

「ここで結果を残すことが、次につながると信じて……」

得点を奪う。チームに貢献する。日々自らも向上する。その場所がどこであろうと、相手が誰であろうと、大橋は一人の「プロサッカー選手」として、高い意識と責任感を持ちながら自身の仕事場たるピッチ上に立っている。きっとその雑念のなさ、まっすぐでひたむきな姿勢の良さは当たり前のことではない。

ブラックバーンの練習場で行ったインタビューの最後、私はこんな質問をした。ちょうどその数時間後、ワシントンで2026年ワールドカップの組み合わせ抽選会が行われる日だった。「半年後への意識はありますか?」

「もちろん点を取って、パフォーマンスも良ければ、絶対にどの選手も見てもらえていると思うので。本当にまずここで結果を残すことが最善だと思っています。そこにフォーカスして、それが次につながると信じて……。毎日、毎試合、そういう感じで過ごしています」

この取材の翌日以降、(シーズン2度目となる雨での試合途中中止によって)幻となってしまった1ゴールを含め、大橋は直近の4試合で3ゴールをマークする好調ぶりを見せ始めた。おそらくはまた、その活躍が彼の向上心にさらなる火をつけているに違いない。

国籍を問わず、人々が彼を愛する理由がそこにある。己のため、皆のため。大橋祐紀は「結果」を目指し続ける。

 


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