新監督の明暗が分かれた。
ラファエル・ベニテスのエヴァートンはサウサンプトンを下したものの、ブルーノ・ラージのウォルヴァーハンプトンはレスターに、クリスタルパレスのパトリック・ヴィエラはチェルシーに屈した。
トッテナムを率いるヌーノは、開幕からどえらいことをやってのけた。マンチェスター・シティに1-0の勝利。コンディション不良の大黒柱ハリー・ケインを起用できなかったにもかかわらず、優勝候補の大本命から見事3ポイントを奪ったのである。
勝因は配置である。ヌーノは4-3-3を選択し、中盤に右からピエール=エミール・ホイビュア、オリヴァー・スキップ、デリ・アリを並べ、右サイドバックにはジャフェット・タンガンガを置いた。
おそらく、シティの左サイドをケアしたのだろう。ラヒーム・スターリングとジャック・グリーリッシュは強力だ。独力でも連携でも多くのチャンスを創出する。ここを抑えるために、本来はアンカーだがプレー強度の高いホイビュアを右にまわし、彼の背後に対人プレーが高く評価されるタンガンガを配置したと考えられる。
ヌーノの人選は的中し、シティに左サイドからリズムを創らせなかった。とくにタンガンガはデュエルでスターリングとグリーリッシュを圧倒し、決勝点を挙げたソン・フンミンに匹敵する大活躍だった。
ケインのシティ移籍が確実視されるなか、ヌーノは的を射た人選で上々のスタートを切った。次節は古巣ウルヴズとの対戦である。シティ戦と同じメンバーで臨むのか。あるいは違った切り口で勝負するのか。

プレミアリーグをチェックする際、プレー強度、いわゆるインテンシティを見逃すわけにはいかない。シティの監督に就任した当初のペップ・グアルディオラが、「こんなに凄まじいとは」と舌を巻き、リヴァプールの指揮官ユルゲン・クロップも「1週間経っても疲労から回復できない選手がいる」と頭を抱えたほど、過酷なリーグである。
所詮は体力重視と批判される方は、世の中が落ち着いたら現地での観戦をおススメする。考え方が180度変わるはずだ。
さて、開幕から異次元のプレー強度でマーカーを威圧する男がいた。ウルヴズのFWアダマ・トラオレ(写真)である。
公称は178cm・72kg。筋肉の鎧を身に着けた肉体は、より大きく見える。フットボールの選手というより、ラグビーのバックス、あるいは陸上の短距離ランナーのような身体つきだ。
肉体的なそのアドバンテージを利して、トラオレは小細工しない。身体を張ってボールをキープし、対戦相手がイエローカード覚悟のラフなタックルを仕掛けてきてもビクともしない。レスター戦は2メートル近い長身DFのヤニク・ヴェスターゴーアを、重心の低いチャージで跳ね飛ばしてみせた。
身体のぶつけ合いではすべて優っていたのだから、トラオレのタフネスは世界屈指のレベルだ。
テクニシャンやパサーがなにかと持て囃される昨今だが、武骨で、愚直なまでのアタッカーは希少価値が高い。格闘技の側面を持つフットボールにおいて、トラオレのようなタイプこそ見直されなければならない。

ブレントフォード・コミュニティ・スタジアムもヴィカレイジ・ロードもキャロウ・ロードも、そしてターフ・ムーア、セント・ジェームス・パークも人々の熱気にあふれていた。グディソン・パークとキング・パワー・スタジアム、スタンフォード・ブリッジは笑顔が弾け、トッテナム・ホットスパー・スタジアムとオールド・トラッフォード(写真)は最上階まで埋め尽くされている。
スタンドにサポーターが戻ってきた。待ちに待った瞬間、なんと美しい光景だろうか。イングランドも新型コロナウイルスが再拡大しているため、「おいおい、マスクした方がいいんじゃないか」と心配になるが、スタジアムを覆い尽くす大歓声が少なからぬ不安を解き放つ。
大方の予想を覆し、シティを破ったトッテナムには地の利があった。選手入場の際にサポーターが作った圧は、ホームチームを勇気づけたに違いない。ブレントフォードを率いるトーマス・フランクも、ベンチに座る前に観衆を煽る、煽る!! スタジアムを味方につけた彼らはアーセナルを圧倒。昇格初戦を2-0でモノにしている。
観衆が戻ってきたことによって、ホームアドバンテージも蘇るのではないだろうか。なかでもリヴァプールの本拠アンフィールドは、サポーターの大歓声によって “要塞” と化す。ヨーロッパの列強が震え上がった独特のムードは、画面からも伝わってくるに違いない。
なお、リヴァプールは次節、バーンリーをアンフィールドに迎撃する。キックオフは日本時間の21日20時30分。視聴する時間帯も申し分ない。DAZN配信の解説は不肖・粕谷が担当する予定だ。
文・粕谷秀樹
1994年、日本スポーツ企画出版社刊の『ワールドサッカーダイジェスト』編集長に就任。その後、同社の編集局次長を務め、01年に独立。以降、プレミアリーグやチャンピオンズリーグ、情報番組、さらに月平均15本のコラムでも、エッジの利いた発信を続ける。東京・下北沢生まれ。
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