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インテリスタの傷心を癒すのは、“新たな勝利”しかない|FIFAクラブワールドカップ 開幕コラム

DAZN

FIFAクラブワールドカップ2025の幕が開いた。熱戦はおよそ1カ月にわたって続く。

フォーマットが一新され、「世界各地の32クラブが出場」「開催期間は約1カ月」と過去最大規模で行われるこの大会は、DAZNによって全試合が無料ライブ配信される。日本のサッカーファンにとっても、「開催地アメリカとの時差」さえ除けば観戦へのハードルは低い。

そんな今大会に、欧州の強豪クラブたちはどんな思いをもって臨むのか。この後、10:00にモンテレイとの初戦を迎えるインテルについて、イタリア在住のジャーナリストが綴る。

文=弓削高志
 

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チーム状態は「ぶっつけ本番」に近い

イタリアの家庭には、たいがい行きつけのピッツェリア(ピザ屋)が一軒や二軒あるものだ。

我が家の近所にある店の2代目若大将は、このところ元気がない。熱心なインテリスタの彼は5月末のUEFAチャンピオンズリーグ決勝で、愛するクラブがパリ・サンジェルマン相手に0-5の大敗を喫してからまだ立ち直れていないのだ。店が繁盛しようが、かわいい恋人が励まそうが効き目なし。陰鬱な気分を吹き飛ばすには、ネラッズーリ(イタリア語で「黒青」を意味するインテルの愛称)の新たな勝利が必要だ。

ただし、FIFAクラブワールドカップに臨むインテルは何から何までぶっつけ本番に近いチーム状態にある。下馬評ではグループEの1位突破最有力候補とされてはいるものの、4月下旬から6月初旬にかけてクラブと選手たち、そして世界中のインテリスタたちは絶望のドン底にたたき落された。

2024-25シーズンのインテルは、4年目の智将シモーネ・インザーギに率いられ、戦力と戦術が成熟した完成度の高い好チームだった。シーズンの終盤までスクデットとコッパ・イタリア、CLの国内外3大コンペティションすべてで王座に手が届く位置につけ、「2010年に達成した偉業“トリプレーテ(3冠)”の再現も夢ではない」とチームもファンも意気込んでいた。

しかし、4月下旬からのシーズン終盤に悪夢ともいえる大失速。残りわずか5節のセリエAで首位から陥落すると、直後のコッパ・イタリア準決勝でも宿敵ミランに3失点完敗で敗退した。

最終節まで信じた逆転スクデットの可能性も潰え、結果的にトップコンディション維持のために強いられたフィジカルとメンタルの負担が重くのしかかった。精神的にも肉体的にも追い詰められた状態で臨んだCL決勝で手も足も出ない大惨敗を喫すると、母国のメディアや評論家から「歴史的恥辱」と容赦ない批判を浴びた。CLファイナルからわずか3日後にはインザーギ監督が辞任し、インテリスタの傷心に追い討ちをかけた。

 

キヴ新監督「やるべきは優勝に挑むこと」

inter Chivu新監督に与えられた時間は少ないが…… (C)Getty Images

だが、シーズンはまだ終わってはいない。灰燼と化したチームを蘇らせるため、ジュゼッペ・マロッタ会長はかつて3冠を達成したOBである若き指導者クリスティアン・キヴを呼び寄せた。

新進の指導者である44歳のキヴは今季、セリエA降格危機にあったパルマに途中登板で就任し、トップチーム初采配ながら見事残留に導いた。一昨年までインテルのプリマヴェーラを率いてリーグ優勝も経験しており、組織内部に知己も多い。時間的余裕のないチームにとって、新指揮官がクラブ風土への慣熟時間を必要としない利点は大きかったはずだ。

6月9日に2年契約を結んだキヴは、最初の大きな挑戦となるFIFAクラブワールドカップへの抱負を述べている。クラブによる公式インタビューで熱弁を奮ったものだ。

「米国へ行くからには、インテルがやるべきは優勝に挑むことだ。私には野心と情熱がある。チームにそれを伝えたい」

ラウタロ・マルティネス主将を初めとするチームの主力たちは大会直前の代表活動から合流するため、新監督キヴが己のサッカー哲学を注入する時間はほとんどない。だが、キヴは前任者インザーギが成熟させてきた3-5-2をパルマ時代から多用してきたため、戦術指導でのアプローチはソフトランディングできるはずだ。前述したプリマヴェーラ指導時代には4バックとトップ下を用いるなど戦術的柔軟性もある。

 

新戦力と若手が躍進のカギに

inter luis enriqueルイス・エンリキのデビューはいかに…… (C)Getty Images

最大の課題は前述したようにフィジカル・コンディションの回復具合だ。攻守の要であるヘンリフ・ムヒタリアン(36歳)やフランチェスコ・アチェルビ(37歳)らベテラン勢はもちろん、北中米ワールドカップの欧州予選を経て疲労困憊のMFニコロ・バレッラやDFフェデリコ・ディマルコ、DFアレッサンドロ・バストーニらイタリア代表組をどこまで起用できるか。

頭文字から“Thu-La(テューラ)コンビ”と呼ばれるFWマルキュス・テュラムとラウタロの2トップはグループ随一だろう。彼らの実力に疑う余地はないが、問題はむしろベンチ編成にある。リザーブ一番手だったイラン代表FWメフディ・タレミが、大会直前に勃発したイラン・イスラエル戦争の影響で母国からの空路を断たれ米国入りが困難に。長丁場の大会を先発2トップだけで戦い抜くのは不可能で、セバスティアーノ・エスポージトら若手FWへかかる期待と責任は重大になるだろう。

注目したいのは今大会を見据えてフロントが獲得した新戦力だ。今季リーグ・アンで9ゴール10アシストを記録し、マルセイユの2位躍進の立役者となったMFルイス・エンリキは、入団直後から「クラブワールドカップに出る準備はできている」と新天地での意欲をあらわにしている。ディナモ・ザグレブから獲得した新星MFペタル・スチッチも併せて、よりフレッシュな彼らはグループ初戦からの先発起用が見込まれている。
 

ラウタロの言葉ににじむ戦う男の意地

inter lautaroアメリカで報道陣に囲まれるラウタロ (C)Getty Images

インテルには、過去に3度“クラブ世界一”になった輝かしい歴史がある。

欧州王者と南米王者による世界一決定戦「インターコンチネンタルカップ」において、1964年と65年にインディペンデンテ(アルゼンチン)を2年連続で破り、世界に名を馳せた“グランデ・インテル”の時代。

当時の会長アンジェロ・モラッティの跡を継いだ息子マッシモも、インテルを世界一にするという夢を追い続け、会長として2010年のFIFAクラブワールドカップUAE大会で大願を成就させた。アブダビの地でマゼンベ(コンゴ民主共和国)を破り、優勝トロフィーを掲げた栄光のメンバーの一人が現監督キヴだ。

「キヴ監督から、すぐに何か大きな勝利を勝ち取りたい、常に何かを勝ちに行きたいと言われた。俺も全く同じ気持ちだ。俺からもチームメイトにヴァカンス前の最後の力を振り絞ろうと呼びかけている。ほかに道はない。前を向くしかないんだ」

米国入りしたラウタロの言葉には、CL準優勝チームの主将としてのプライドというより、一人の戦う男としての意地がにじむ。

遠いイタリアのピッツェリアでテレビ中継を見ながら、生地をこねるインテリスタの若大将の手にも力が戻り始めている。

 


 

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